「ゾンビ×王位継承争い」観始めたら止まらない韓ドラ「キングダム」

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 仲の良い友人ふたりが韓国の映画とドラマに詳しい。オススメを聞いたら、リストが送られてきた。その中に傑作が。ゾンビモノと知って躊躇したが、観始めたら止まらねえ。Netflixオリジナルドラマ「キングダム」である。シーズン1・2の全12話を一気に観ちゃった。

 この連載を続けてほぼ10年、韓国ドラマを取りあげるのは初めて。韓国の俳優に詳しくないし、韓国時代劇を語れるほどの知識もない。そんな無知の私でも、この作品は固唾(かたず)を呑んで観続けちゃうほど面白かった。

 舞台はたぶん朝鮮王朝時代。民の逼迫(ひっぱく)した生活をよそに重い年貢を取り立て、王の権力をかさに着たチョ氏一族による腐敗政治が蔓延(はびこ)っている。王が病に臥せって数日。権力を握る大監チョ・ハクチュ(リュ・スンリョン)と、その娘で若き王妃(キム・ヘジュン)は何か企んでいる様子。王妃は妊娠中、つまり、男が生まれれば直近の王位継承者だ。

 王と前王妃の息子で、主人公のチャン世子(チュ・ジフン)は病床の父に会おうとするも、チョ父娘に阻まれ、王宮内の不穏な空気に疑念を抱く。以前、王を診察した医員(医師)が真実を知るとにらみ、護衛にムヨン(キム・サンホ)を伴い、旅に出る。向かった先の東莱(トンネ)では謎の疫病が流行。罹った者は化け物(つまりゾンビ)となり、人を噛み殺して次々と感染させる地獄と化していた。

 そこで化け物封印に尽力していたのが、医員のソビ(ペ・ドゥナ)と、銃の名手で故郷の村が皆殺しにされた過去をもつヨンシン(キム・ソンギュ)。うつけでビビりのボムパル(チョン・ソクホ)が愛嬌キャラとして最後まで生き残るのも、ドラマとしては心和む設定だ。

 とにかくゾンビが超高速。「思てたんとちゃう!」くらい速い。ゾンビエキストラの皆さんの脚力がすごい。全速力で突進してくる姿は失禁一歩手前の怖さがある。

 このゾンビの特性は徐々にわかってくる。水と火が嫌い、活動時間帯は夜限定。と思いきや、昼でも襲ってきやがった! というのがシーズン2の始まり。うまいんだ、誘導が。ゾンビとの熾烈な戦いと王位継承の争いが同時進行の忙しさ! 映像の迫力と巧妙な展開の引力に呼吸が浅くなるほど。

 劇中ではゾンビと呼ばず、「化け物」「疫病」と呼ぶ。特に官僚や貴族(両班)たちの保身が、まあひどい。庶民を「賤民」と呼び、平気で見殺しにする。伝統だ血縁だ権力だのに固執して、人権や命を軽んじる。わあ、日本の現政権と一緒だね。

 しかし、チャン世子は民を決して見捨てない。迅速に適切な指示を出し、民と共に闘う。逃げない、嘘つかない、権力に固執しない。為政者としての手本を体現。日本には真逆の大臣しかいないのでため息出ちゃうよ。

 王妃は極悪だが、ある意味で父権社会の犠牲者。復讐を果たす設定も私の好み。

 疫病を制圧したかのように見えたが、チャン世子の闘いはまだ続くようだ。シーズン3が心底待ち遠しい。

 ゾンビモノと韓国ドラマへの先入観を吹き飛ばしてくれた名作だ。日本のドラマがシケて見える副作用も。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年4月16日号掲載

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