PJ機内で逮捕はフェイク……カルロス・ゴーンが私に700分語ったこと
衝撃の「ゴーン会長逮捕」は、プライベートジェット機が到着し、タラップがかけられた機内に、検察庁の係官と思える数名の男が機内に乗り込んでいく映像から始まった。しかし、それは、「ゴーン会長逮捕」とは無関係の映像だった。フェイク映像から始まった「会長追放クーデター」は日産に何をもたらしたのか。新型コロナ危機に直面する日産は、今、経営の軸も定まらず、重大な危機に直面している。
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昨年11月から12月にかけて、私(郷原信郎)はカルロス・ゴーン氏にインタビューし、その内容を含め、ゴーン事件を解説する著書を出版する予定だったが、昨年12月31日に同氏が保釈条件に違反してレバノンに出国したことで、その出版企画は白紙となった。
今年1月13日になって、ゴーン氏とテレビ電話で話をすることができ、インタビューの内容は私の方で自由に使うことを了承してくれたので、そのことをYahoo!記事ニュース【「ゴーン氏出国が衝撃だった『「もう一つの理由』」」】などで明らかにした。22日には、日本外国特派員協会(FCCJ)での記者会見で、インタビューを行うに至った経緯などについて述べた。
一旦白紙になっていた著書についても、複数の出版社からオファーがあり、1月8日のゴーン氏のレバノンでのインタビューにも参加した小学館から出版することにした。
『「【深層」カルロス・ゴーンとの対話 起訴されれば99%超が有罪となる国で』】と題して、4月15日に発売される。
平成最後の時期の日本に衝撃を与えた「日産自動車ゴーン会長追放事件」、その背後には、深い「闇」があり、そして、多くの「謎」が残されている。同書では、ゴーン氏のインタビューで明らかになったことを含め、事件をめぐる「謎」を解き明かし、「闇」の「深層」に迫った。その一部を紹介しよう。
2018年11月19日、ゴーン氏がプライベートジェット機で羽田空港に到着直後、逮捕に至るまで、どういう状況だったのか。朝日新聞(電子版)は、「日産ゴーン会長、逮捕へ」とスクープし、プライベートジェット機が到着し、タラップがかけられた機内に、検察庁の係官と思える数名の男が機内に乗り込んでいく映像を配信した。この映像は、内外のマスコミに提供され、「カリスマ経営者カルロス・ゴーンの逮捕」のイメージ映像となって、全世界に広まった。ゴーン氏が専用ジェット機で羽田空港に帰国するのを待ち構え、逮捕の決定的瞬間をとらえたかのように見えた。
しかし、インタビューでゴーン氏が話したところによると、逮捕されたのは、以下のような経過だった。
プライベートジェット機に乗って、19日の午後4時頃に羽田空港に到着したゴーン氏は、飛行機から降りてハンドラーと一緒にターミナルに入った。パスポートコントロールで入国審査を受けた際、係官が、パスポートを見て、パスポートに何か問題があるようなふりをして、パスポートを持ったまま事務室に入っていった。係官は戻ってきて、「パスポートに異常があるので、オフィスに入ってもらえますか。問題を解決します。」と言い、近くの部屋に連れていかれた。
部屋にはテーブルがあり、その後ろに関検事が座っていた。
関検事が私のところに来て、「検察です。質問があります。同行してください。」と言ってきたので、驚いた。
「娘が出口で待っている。娘に電話をかけたい。」と言ったが、「もう電話は使えません。」と言われた。そこに他の人がたくさん集まってきた。
別の扉から建物の外に出た。車に乗せられ、左右に人が座った。カーテンで外は見えなかった。
ゴーン氏は、プライベートジェット機で到着後、飛行機から降りて、通常どおりに入国審査に臨み、その際に任意同行を求められ、検察庁で逮捕されたものだった。
「プライベートジェット機に乗り込んでいく検察の係官」は、「ゴーン氏逮捕」と無関係の映像だった。
プライベートジェット機に入っていく男達は、何者であったのか、何のために入っていったのかは不明だ。この映像を、朝日新聞は、「ゴーン氏逮捕」のイメージ映像として、国内外のマスコミに提供した。しかし、それは、「ゴーン氏逮捕」の場面とは無関係の「フェイク映像」だったのである。このフェイク映像は、その直後から「ゴーン会長逮捕」が国内外のメディアで大々的に報道され、バッシング報道が盛り上がることに影響したのは間違いない。
逮捕後5日間、容疑の「報酬」の中身は不明だった
ゴーン氏の「突然の逮捕」の容疑事実について、検察当局が、2015年3月までの5年度分の役員報酬の合計、約50億円の有価証券報告書虚偽記載であることを発表した以外には、具体的な中身は全く明らかにされなかった。
その約50億円の役員報酬というのが、どのようにしてゴーン氏に支払われたるものなのか、金銭報酬なのか、あるいは、別の形の利益として提供されたものなのかが判然としないまま、ゴーン氏の犯罪や不正の内容については、「多額の役員報酬を受領していながら、それ以上の報酬を受領して、それを隠していた」「隠した報酬について日本で税金を免れていた」「日産の資金でブラジルやレバノンなど海外で自宅を購入させたり、改修費を負担させたりしていた」「海外での自宅購入資金や、その賃料相当分が報酬に当たる」などと、全くの憶測だが、「ゴーン氏が日産を私物化し、巨額の利益を得ていた」という前提で、報道が行われた。
逮捕の容疑事実の中身が全く明らかにならない状態が5日も続く中、マスコミは、容疑事実とは無関係のゴーンバッシング報道に狂奔していった。そして、そのバッシングの中心になっていたのが、レバノンとブラジルでの住宅購入の問題や、ブラジルの姉への顧問料支払いなどに関する「会社私物化」の報道だった。夥しい量のバッシング報道で、世の中には、カルロス・ゴーン=「犯罪者」「強欲」「独裁者」というイメージが定着した。
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