松本大(マネックスグループ代表執行約社長CEO)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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お金の教育を

佐藤 ただ日本ではスタートアップ企業になかなかお金が集まらない。松本さんは常々、日本では投資が根付いていないと指摘されていますね。

松本 日本人は「超」が付くほどお金に保守的で、貯蓄する国民性が非常に強いんですよ。

佐藤 お金を回していく発想がない。

松本 この間、ユダヤ系アメリカ人から投資の相談を持ち掛けられました。彼らは子どもがある年齢に達すると、まとまったお金を渡すそうです。たぶん1万ドルとか2万ドルくらいでしょうね。

佐藤 13歳での成人式、バル・ミツワーじゃないですか。

松本 それですね。そこで父親と息子でそのお金の使い方をディスカッションする。フィランソロピー(寄付)をどこにするか、投資にはいくら使うか、などを決めていくのですが、その投資先の相談で僕のところにきた。そこで投資信託では値動きだけで勉強にならない、社会の動きや経営を知るなら、やっぱり企業の株を買った方がいいと助言すると、それなら息子はテスラかスペースXを買おうとすると言う。では、合わせてボーイングも買って、どちらが宇宙ロケットを成功させるか、比べてみるといいと提案したんですね。

佐藤 それはいいですね。

松本 アメリカのある程度のレベルのユダヤ人家庭では、同じことをやっていると思うんですよ。

佐藤 私と付き合いのあるユダヤ人は、幼稚園の頃からお金の教育をされたと言っていましたね。子ども時代からお金と付き合っていけば、確かにどうお金を生かすかが身につくでしょうね。

松本 やっぱりお金とは何であるかという、本質的なことを考えると思うんです。そうした機会が日本の子どもたちにもあった方がいい。それは巡り巡って国の予算のあり方にも影響してくると思います。ブラジルのサッカーが強いのは、ただプロチームが強いのではなくて、国中の子どもたちがサッカーをしているからです。それと同じで、お金のリテラシーが高くなれば、社会も強くなっていく。

佐藤 まったく同感です。

松本 アメリカやイスラエルでは、そういう教育があるから、お金を借りたり、出資したりして、スタートアップ企業がたくさん生まれますし、企業が赤字でもどんどんファイナンスして研究を続けていくことができるんです。お金は社会財なので、それをどう回すかが大切です。日本はそれがまだ世界で2番目に多い。いまだったら間に合うので、早急にお金を回していく社会を作っていかなければならないと思っています。

松本大(まつもとおおき) マネックスグループ代表執行役社長CEO
1963年埼玉県生まれ、東京大学法学部卒。87年ソロモン・ブラザーズ・アジア証券入社。90年ゴールドマン・サックス証券に移り、94年ゼネラル・パートナーに就任した。その後、99年マネックス証券を設立。東京証券取引所社外取締役などを歴任し、現在、米マスターカードの社外取締役でもある。

週刊新潮 2020年4月9日号掲載

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