松本大(マネックスグループ代表執行約社長CEO)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
デジタル人民元の脅威
佐藤 いま生まれつつあるデジタル通貨にもそういう面がありますね。
松本 ええ、国家への挑戦と見なすこともできます。ただ世界に目を移すと、中国がデジタル人民元を作り、サイバー空間ではドルに代わる基軸通貨になろうとしているんですね。これは非常に大きな問題です。
佐藤 他方、アメリカではフェイスブックの仮想通貨リブラがいったんは潰されました。
松本 アメリカだけでなく、ヨーロッパの国々でも叩かれたわけですが、リブラにストップがかかった後、国という単位でデジタル通貨をやるとしたのが、最初にイラン、次が中国、そして北朝鮮なんですよ。
佐藤 ロシアもデジタル通貨クリプトルーブルを出すと言っています。
松本 そうですね。いまデジタル通貨の基礎理論であるブロックチェーン(分散型台帳技術)の論文は、半分以上がロシアから出ています。研究がものすごく進んでいる。中国、ロシアがどんどんデジタル通貨を推進しているなかで、日本など小さな国の単位で、国家への挑戦と警戒して流れを止めてしまうと、今後はそうした国々に太刀打ちできなくなってしまいます。
佐藤 デジタル人民元に飲み込まれていくでしょうね。
松本 作ろうとしている国を見てみると、やはり世界の自由主義経済圏に対する挑戦が行われると見た方がいい。中国は10年、20年単位で先を考えていますから、もうちょっと俯瞰して、国としてデジタル通貨に対応していかないと困ることになる。
佐藤 マネックスは、デジタル通貨のひとつ仮想通貨NEMの流出事件が起きた「コインチェック」を傘下に収め、フェイスブックのもとで仮想通貨を運営・開発するリブラ協会にも加盟申請していますね。
松本 世界各地の実質的な距離が縮まり、どこも同じような社会になってきていますから、国でなくてもお金の共同幻想が成り立つ時代になってきたわけです。フェイスブックには25億人くらいユーザーがいて、みんなが同じ土俵でやりとりしている。
佐藤 人口としてみれば、国よりもはるかに多い。
松本 この流れを見て、中国はデジタル人民元を加速させているのだと思いますね。
佐藤 私も何種類か持っていますが、ビジネスとしての仮想通貨はいかがですか。
松本 まだまだ黎明期ですが、本当にさまざまな可能性があるんですよ。裏付けという点では、紙幣同様にありませんが、改竄できない。堅牢さでいうと、硬貨より紙幣、紙幣より仮想通貨なんです。お金は簡単に偽造できる金属から、複雑な製紙技術と印刷技術を使う紙幣になっていきましたが、いまは3Dプリンターなど、精巧なコピーを作るデジタル技術がある。
佐藤 確かにそうですね。
松本 仮想通貨は、ダイヤモンドみたいなものです。ダイヤもただの炭素じゃないですか。でも需要があるので、値段があり、流動性がある。そして資産にもなりうる。ビットコインも中身はないけれど、堅牢で、需要があり、売買が成り立てば資産価値が生まれます。
佐藤 これまで投機的な面ばかり強調されてきましたが、具体的にはどんな使い方があるのですか。
松本 この仕組みを使うと、お金をすごく進化させられます。例えば券面債券ができることは全部やれます。債券の券面には、これは誰々に渡したもので、その人しか使えないなど制約を加えることができます。それと同じで、食品だけ買えますとか、武器は買えませんとか、用途を絞ることができる。そうなると地方再生用のお金とか、おばあちゃんと離れて住む孫にお小遣いをあげるにしても、電話をかけてこないとあげないとか、いろいろデザインすることができます。そこが非常に面白い。
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