松本大(マネックスグループ代表執行約社長CEO)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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フェイスブックの「リブラ」はいったん潰えたが、世界各国でデジタル通貨発行への動きは加速している。中国のデジタル人民元は、サイバー空間での基軸通貨の座を狙う。この流れにいかに対処していくべきなのか。あまりに貯蓄好きな日本人におくる、これからの「お金」との付き合い方。

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佐藤 私がお金と国家の関係について、深く関心を寄せるようになったのは、ソ連崩壊を目の当たりにしたからでした。1991年1月22日、モスクワ時間の21時過ぎの全国ニュースで、本日24時をもって50、100ルーブル紙幣が使用停止になります、と発表されたんです。

松本 それはなかなかできない体験ですね。2016年にインドも高額紙幣を無効にしていますが、滅多にないことです。

佐藤 ルーブルは他国の通貨と自由には交換できないソフトカレンシーでしたが、それでもそんなことが起きた。そしてルーブルの信用がなくなると、次に貨幣に代わるものが出てきました。それがマールボロだったんですよ。

松本 タバコですね。

佐藤 マールボロの赤いケースで、あらゆる価値が表現できるようになりました。タクシーを捕まえるときにはマールボロを振って止めるし、レストランでキャビアから始まるフルコースを食べるときにもマールボロを2カートン持っていく。

松本 日本の戦後や明治維新など、政体変更のときには同じような光景が繰り広げられたのでしょうね。

佐藤 そうだと思います。本日は、長年抱いてきたお金と国家の問題やお金の本質、これからのお金などについて、お金の最前線で働く松本さんにうかがってみたいと思ってやってまいりました。

松本 はい。頑張ってお話ししてみます。

佐藤 最初に、松本さんはお金をどのように捉えておられますか。

松本 まずは交換価値ですね。どんな商品とも交換できる。そしてやっぱり、みんなが共同で持っている一つの幻想だと思います。紙幣なんて、ただの薄っぺらな紙なので。

佐藤 そうですよね。1万円札も、年によって違いますが、だいたい1枚22円から24円で作れます。

松本 それでどうして1万円分のものが買えるかといえば、それだけの価値があり交換ができるという幻想を、国家や社会が作っているからです。金本位制があった時代は、金という実体に裏付けられていたわけですが、いまのお金はまさに幻想に支えられている。

佐藤 マールボロは昔の金と同じですね。ソ連崩壊時には、マールボロという実体そのものが流通した。

松本 一方でお金は、国家が国民を管理する統治の道具でもあります。お金に交換価値を持たせて流通させる共同幻想が成立しているのは、逆に言うと、ものすごいパワーで国家が国民に信じ込ませている、ということです。

佐藤 世界の基軸通貨になっているドルなどは、自国だけにとどまらない、ものすごい力があります。

松本 ええ、ドルはアメリカにとって、世界を統治する強力な道具です。中国がどんどん成長して世界貿易でアメリカの一番のカウンターパーティ(取引先相手)になっても、中国とさまざまな国との間で行われる決済にはドルが使われていますからね。

佐藤 そこは揺らがない。

松本 アメリカはドルの使用を止めることで、いろんな国の首根っこを押さえることができます。例えば、国際金融取引の伝送ネットワークSWIFTとか、外国送金の中継点となるコルレス銀行でドルを止めればいい。そうして見ると、お金にはファイナンス(金融)の部分とガバナンス(統治)の面があるわけです。

佐藤 それは肌感覚でわかります。前にライブドアの堀江貴文さんと対談したことがあります。東京拘置所の同窓生なんですよ。

松本 なるほど。それはお勤めご苦労さまでした(笑)。

佐藤 彼はライブドア株を分割しましたね。一般的には、分割すると手続き上のタイムラグが生じるので、株が不足し高値に誘導できる。そこで売買を繰り返して利益を吸いあげたという見方ですが、彼は、どんどん分割して、スーパーでライブドア株をお金のように流通させたい、と考えていました。つまり100分割、千分割した株式で、大根が買えるようにしようというわけです。そうなると、もう私的な通貨です。それは国家を刺激する。

松本 当然、刺激するでしょうね。

佐藤 お金への共同幻想にぶつかるし、国家の統治機能を脅かすことになる。

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