コロナ禍で独り歩きする「数字」の正しい読み方 “東京のNY化”は本当に起きるのか

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 日に日に増加する東京の感染者数、それを受けたテレビのワイドショーでの煽りによって、新型コロナウイルスに恐怖心を抱いている人は少なくない。だが、

「単純な感染者数は、人口の多い東京都が891人で1位、大阪府が387人で2位ですが、人口10万人当たりの感染者数は、福井県の6・7人が1位です」

 と、4月5日17時現在のデータをもとにして説くのは、統計データ分析家の本川裕氏である。

「東京は6・5人で、福井に次ぐ2位。3位は4・5人の京都府で、4位は4・4人の大阪府、5位が千葉県の3・7人。緊急事態宣言の対象となる兵庫県は3・4人で8位、神奈川県は2・6人で13位、埼玉は2・2人で16位。全国平均は2・8人ですから、神奈川と埼玉は全国平均より低い数字です」

 本川氏は東京23区別の感染者数(4月3日時点)についても、こう話す。

「感染者数の多さが注目されている世田谷区は、10万人当たりの感染者数で見ると高くなく、22・2人の港区が1位で、12・3人の台東区が2位、3位は目黒区で12・1人、4位は中央区で11・8人、5位は渋谷区で11・3人、新宿区が6位で10・9人。大きな繁華街を抱えている区に感染者が多いのが特徴です」

 歌舞伎町など、地域を指定しての強い自粛要請のほうが、むしろ効力があったのではないだろうか。

6月終息の可能性

 とはいっても世界からは日々、戦慄を覚えるような数字が届けられる。たとえば、イギリスの大学、インペリアル・カレッジ・ロンドンは「対策をしなければ今年だけで全世界で4千万人が死亡する」と分析結果を公表している。英キングス・カレッジ・ロンドン教授で、WHO事務局長上級顧問の渋谷健司氏は、

「十分ありうる数字だと思います。集団免疫を獲得するためには、人口の7割程度が感染し、抗体をもつ必要があります。日本の人口の7割だと、約8千万人が感染し、死亡率1%未満としても、対策を講じなければ数十万人以上が亡くなる計算になります」

 と話す。たしかに、欧米での感染拡大状況を見れば、日本にも欧米並みのロックダウンが必要だ、という声がもっともらしく聞こえる。だが、掲載の表をご覧のうえで、匿名が条件の医師の話に耳を傾けてほしい。

「感染者が爆発的に増えた国、人口当たりの死者数が多い国は、これまでの季節、気温が低く乾燥していた欧米諸国ばかりなのです」

 たしかに、アメリカのなかでも感染爆発を起こしているニューヨークは、寒くて乾燥がひどい。

「一方、台湾や香港のほかタイ、ベトナムなど温暖で湿潤な東南アジア諸国は、当初は欧米諸国より感染者が多かったし、衛生環境も欧米よりよいといえないのに、感染者の増え方は鈍い。日本もこれらの国や地域と同じ傾向と思われます。また、インドは全土が封鎖されましたが、13億人の人口と衛生状態のわりに感染者も死者も少ない。アフリカ諸国への蔓延が懸念されていますが、爆発的な感染は起きていない」

 これはなにを意味するのか。医師が続ける。

「新型コロナウイルスは湿度や紫外線に弱いという研究報告があるのです。いまの世界の感染状況を見るかぎり、信憑性があると思わざるをえません」

 東京は感染者数が2週間前のニューヨークに近いので、2週間後にはニューヨークのようになりうる、と案ずる声も多いが、東京にはずっと先にウイルスが入り、3カ月近くかけてこの数字に達しているのだ。

 いずれにせよ、すでに緊急事態であるのなら、我々はこの我慢をいつまで続ければいいのか。国際医療福祉大学の松本哲哉教授は、

「日本国内は、まだ感染のピークを全然迎えておらず、どんなに短くても数カ月はかかります」

 と言い、同じ大学の和田耕治教授はさらに、

「いまだけではなく、1年、2年という年単位の我慢が必要です」

 と、悲観論を述べる。前出の渋谷氏も、

「集団免疫をつけるには数年単位を要するので、都市封鎖して、感染者数が落ち着いたら解き、また増えてきたら封鎖する、という方法を繰り返すことも、検討すべきだと思います」

 と述べる。だが、先述の紫外線等の効果を鑑みれば、見通しが違ってきはしないか。長野保健医療大学特任教授の北村義浩氏が言う。

「緊急事態宣言後、国民一人一人が徹底的に自粛できれば、最も早くてGW明けごろに新規の感染者ゼロもありえます。また、紫外線を30分当てると、コロナウイルスを無害化できることがわかっているので、紫外線の量が増える5月末から、感染者数が落ち着く可能性はあります」

 加えて、治療薬として効果が期待されるインフルエンザ薬、アビガンが認可されれば、不安が軽減するはずだ。ドイツをはじめ、希望している約30カ国に無償提供する、と菅官房長官は述べたが、日本では、

「増産させているものの治験は始まったばかり。薬害エイズ事件で担当課長が刑事罰を科せられたトラウマから、厚労省が認可に慎重なのです」

 と政治部記者。北村氏が政府の尻を叩く。

「アビガンは開発者自身が、新型コロナウイルスに効果があると言っている。200万人分備蓄するという以上は、政府も効果を確信しているはずで、そうであれば5月中には、臨床試験以外で使えるようにしてほしいと思います」

 言うまでもないが、このウイルスが怖いのは、死に至りうる病だから。治療薬があれば、恐怖は相当程度軽減されるはずである。

週刊新潮 2020年4月16日号掲載

特集「『緊急事態宣言』を生きる」より

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