新型肺炎、もしもの時の人工肺「エクモ」に期待と不安 全国にわずか1300台

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 新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなった志村けん(享年70)は、エクモと呼ばれる体外式膜型人工肺で生命を維持していた。

 エクモは2012年に亡くなった中村勘三郎にも用いられ、肺機能が著しく低下した重い呼吸不全の患者の治療に使用される。人工呼吸器を使っても体の酸素の状態が保てないほど呼吸障害が進んだ場合に、エクモへ切り替えることになるという。

「昔は欧米に比べると、日本のエクモの治療成績はあまりよくありませんでした。例えば09年に新型インフルエンザが世界的に流行した際は、欧米での救命率は70~80%だったのに対し、日本では38%程度に留まりました。その後、日本は12年に『エクモプロジェクト』を立ち上げ、研究や研修、勉強会を繰り返し今では欧米に近い成績を上げられるようになったのです」

 と、都立多摩総合医療センターの清水敬樹救命救急センター長は振り返る。

「以前のエクモは、人工肺の耐久性が低く、数日おきにフィルターなどの交換が必要でしたが、今はその点は改善されつつあり、2週間から1カ月はもつ海外と同様の装置を使う施設が増えてきています。また、エクモを管理するスタッフの技術も当然上がってきています。エクモを使う際は、血栓の発生を防ぐために抗凝固薬という血液をサラサラにする薬を使います。そのため、ちょっと油断してエクモの調整を誤ると、脳出血など、あらゆるところから出血が起きてしまう。そういったノウハウも以前に比べれば共有されてきています」

 日本COVID-19対策ECMOnetの竹田晋浩代表が後を受け、

「ウイルス性肺炎にエクモは有効。MERSという12年に発見された非常に強い毒性を持ったウイルスが流行ったことがありましたね。サウジアラビアのデータになりますが、人工呼吸器で重症患者を治療した場合は、生存率が0%だったのに、エクモを使った場合は40%が助かっています」

 すでに報じられている通り、今般の新型肺炎に対しエクモが実施された国内の症例は23。そのうち、エクモから離脱して回復できた数は12例だ。

「エクモを使っている間に肺の機能が戻ればよいのですが、高齢者など基礎体力のない方の場合、肺の状態がなかなか元に戻らず、どんどん悪くなってしまうのです」(東京医科大の阿部信二呼吸器内科診療科長)

 ちなみに、日本呼吸器学会などが中心となってまとめたエクモの使用に関する注意事項(第1版/2月27日付)では、〈75才以上は予後が悪く、一般的には適応外〉という方針が示されていた。それが、第2版(3月24日付)では、〈65-70才以上は予後が悪く、一般的には適応外〉と変更されたのだった。志村はこれに当てはまってしまった格好だ。

「エクモを使う期間は1~2週間。この間にエクモから離脱できれば予後がいいというデータが出ています。逆に、それ以上長いと厳しい数字になる。ちなみにエクモは1台1500万~3千万円で、もちろん保険は適用されます。今後、重症者が爆発的に増えてエクモでの治療を大勢の人が必要とした場合、現状は全国に1300台しかないので、命の選別が必要になってくると思われます」

 更に厳しい話をすれば、首都圏と長野の9都県では10カ所がエクモの熟練施設とされているが、病床数は30ほどに留まる――。

週刊新潮 2020年4月9日号掲載

特集「『勘三郎』の悪夢再び 『志村けん』を救えなかった『人工肺』のコロナ戦績」より

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