志村けんさんを救えなかった人工肺「エクモ」 故・勘三郎の悪夢ふたたび…
誕生日という共通点
日本COVID-19対策ECMOnet代表で、勘三郎の主治医でもあった竹田晋浩氏は、当時を振り返って、こう語る。
「勘三郎さんの肺は完全に潰れてしまっていました。自力では肺が回復できるような状態ではなく、移植をしなければ、エクモから離脱することはできない状態でした。そのようになってしまったのは、それまでの病気の経過が関わっています。手術の後に勘三郎さんは嘔吐によって胃から逆流を起こし、胆汁を誤嚥してしまった。肺炎を発症してから我々の病院に搬送されるまでに1カ月かかっているのですが、その間に強力な人工呼吸管理が行われており、搬送された時にはすでに手遅れの状態でした。とはいえ、勘三郎さんの場合は亡くなるまで3カ月あり、しばらくは意識もありました。志村さんとはだいぶ状況は違ったはずです」
具体的には、
「志村さんは1日に煙草を60本吸うようなヘビースモーカーだったということですが、そういう方は肺に基礎疾患を持っている場合が多く、エクモを導入してもなかなか厳しい場合が多いのです。また肺だけではなく、他の臓器、腎臓や心臓がやられてしまう場合も、回復は難しくなります」
事実、前出の事務所関係者はこう明かす。
「亡くなる2~3日前には腎臓の機能も低下し、人工透析をしていました」
人工肺に加えて人工透析、更に古希という年齢で闘える相手ではなかったということだろうか。先の阿部氏も、
「新型コロナウイルスで肺炎を発症すると、かなりの確率で多臓器不全も発症し、特に、肝臓と腎臓が悪くなるようです」
としたうえで、志村と勘三郎のケースに言及する。
「エクモを導入して肺を温存しても回復できないほどに、肺の障害が進んでいたということだと思います。特に、志村さんが感染してしまった新型コロナウイルスは発症してからの進行が速いので、回復できなかったのだと考えられます。このウイルスの特徴として潜伏期間は少し長く、いったん悪くなってからの進行が速い。エクモを導入しても助かる人と助からない人を分けるのは何かと聞かれれば、『病気を乗り切ることができるだけの基礎体力』ということになります。だから、どうしても、少し年齢の高い方が発症すると、厳しい状況になってしまうのです」
同様に、都立多摩総合医療センターの清水敬樹救命救急センター長も、
「エクモは時間稼ぎをするための装置です。ウイルス性の肺炎の根治的治療は現在、様々な薬剤がトライされていますが、最終的には自分の力で治癒を目指すしかありません」
と説く。3人の専門家が異口同音に、高血圧などの基礎疾患を持たない、基礎体力、免疫力……と訴えるのだから、身も蓋もないが日頃の生活習慣しだいということになるのだろう。
最後にもう一つ、勘三郎と志村との共通点である「誕生日」に触れておこう。
勘三郎はがんを公表した際に、こう語っていた。
〈57歳の誕生日会でドンチャン騒ぎをした後のことで私自身も大変に驚いちゃいました〉
志村も誕生日を迎えた去る2月22日、六本木の高級クラブを借り切って盛大なパーティーを開いている。
「志村が古希を迎えたこともあって、親交の深い中山秀征などが中心となり、はるな愛や懇意にしているグラビアアイドルなど、かなりのタレントが参加しました。仕事終わりに顔を出す業界関係者も多く、100人以上が出席しました」(前出の事務所関係者)
この場でのコロナ感染も心配されるが、不幸の中で更に悲劇なのは、感染予防のため遺族が目にしたのは亡骸ではなく荼毘に付されて遺骨となった志村だという。時節柄、葬儀やお別れの会を開くこともままならず、幅広く愛された人にしては寂しすぎる今生の別れとなりそうなのだ。
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