春季大会も中止……新型コロナが「夏の甲子園」に与えるあまりに大きすぎる影響

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 4月7日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象に緊急事態宣言が発表された。高校野球では春の選抜大会の中止に続き、全国各地で春季大会の中止が相次いでいる。唯一無観客ながら予定通りの日程を消化していた沖縄県大会も、ベスト4が出そろった時点で大会が打ち切りとなった。夏の全国高校野球についても予定通り開催できるか不透明な状況だが、もし開催される場合、この春の影響がどう出るのかを考えてみたい。

 中止が相次いでいる春季大会は、夏、秋とは異なり甲子園大会に繋がっていない大会である。そのため開催の是非が議論されることもあるが、チームや選手にとっては夏に向けての重要な調整の場であることは間違いない。特に、高校生の場合は冬のトレーニングによって大きく成長するケースが多く、秋季大会とはレギュラーメンバーが入れ替わることもよくあることである。練習や練習試合でもある程度見極めることはできるが、やはり公式戦でのプレーを参考にできないというのは選手にとっても指導者にとっても辛いところである。

 また、春季大会では、新戦力の1年生を積極的に起用するということもよく見られる。その1年生が春に自信をつけて、夏にもラッキーボーイ的な役割を果たすこともある。しかし、春の大会がなければ、ぶっつけ本番の夏にいきなり1年生を抜擢するということは難しくなるだろう。そういう意味では限られたチャンスを奪われた3年生、高校での華々しいデビューを狙っていた1年生、どちらにとっても厳しい状況と言えるだろう。

 次に大会自体にも影響が出てくる。今年初めて夏の大会にシード制を導入する予定だった大阪府だが、その参考となる春季大会が中止となったことで今年もシード制無しで大会が行われることになった。それ以外の地域でも、例年採用していたシード制を見直す地域が続出してくることが考えられる。

 2015年の大阪大会では大阪桐蔭と履正社がいきなり初戦でぶつかり話題となったが、このような強豪校同士がいきなり対戦するケースや、有力校が特定のゾーンに集中するような事態も出てくることが予想される。また、公式戦はどのチームも昨年秋以来ということになるため、思わぬ伏兵が勝ち進んで甲子園出場というケースが出てくることも十分に考えられるだろう。

 その一方で、チーム間の格差が広がることも予想される。現在、多くの学校が休校となっており、その影響を受けて自宅待機となっている球児も少なくない。自主的にトレーニングを行っているとはいえ、チームプレーなどができない点は大きなマイナスである。ただ、中には全体練習や練習試合を再開しているチームがあることもまた確かだ。公立、私立という単純なくくりだけではなく、学校によってその裁量は異なっており、チーム力をアップしていく春から夏にかけてのこの時期に実力差が開くということも大いにありうるだろう。

 もうひとつ心配なのが、選手のコンディションの問題である。冬の期間に基礎となる体力面を強化し、春からプレーの質を高めていって夏にピークを持ってくる、というのが理想的なパターンであるが、活動自粛となったことでせっかく養った体力、筋力が低下してくるケースも出てくるはずである。また前述したように全体練習が少なくなっているチームなどでは、試合中のプレーの“勘”が戻り切らずに、思わぬ怪我に繋がることもある。そうならないためにも、選手自身や指導者はいつも以上のケアが必要になってくるだろう。

 最後に重要なポイントになるのは、やはり選手のモチベーション面ではないだろうか。選抜に選ばれていたチームもそうでないチームも、なかなかシーズンが本格的に始まらず、やきもきした気持ちで日々を過ごしている選手は多いはずだ。選抜出場予定だった花咲徳栄(埼玉)は、開会式が予定されていた日にグラウンドで入場行進を行って一区切りつけたと報道されており、また他でも選抜でつけるはずだった背番号を渡したチームもあったと言われている。高校野球はプロや社会人と比べて技術的に未熟であるからこそ、メンタル的な面が大きく勝負を左右すると言われているが、今年は例年以上にその部分が重要になってくることが予想される。

 この苦難をどう乗り切り、最後の夏に照準を合わせてチームを仕上げられるか。そういう意味では本当に強いチームがどこなのかが、はっきりするのがこの夏なのかもしれない。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年4月11日掲載

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