役者が本人役で再集結した「ビバヒル」日本のドラマにはない毒気と潔さに震える

  • ブックマーク

 デデデデッ、デデデデッというエレキギターの音を聴くだけで反応する。役名は全員出てくるが、物語の詳細をあまり覚えていない。とにかくアメリカのイケすかない金持ちの息子や娘がとんでもなく楽しそうな高校生活を送り、仲間内でくっついたり離れたり、アルコールやドラッグに溺れたり、というドラマだった。「ビバリーヒルズ高校白書」「ビバリーヒルズ青春白書」略してビバヒルである。90年代前半からNHKで放送。確か、私が学生の頃だった。

 そのビバヒルが変化球で帰ってきた。当時のメンバーが本人役で登場、ビバヒルのリブート版を製作する「ビバリーヒルズ再会白書」である。役名で覚えている私にとっては、しっかり者ブランドン(ジェイソン・プリーストリー)とお騒がせな妹ブレンダ(シャナン・ドハーティー)、アメリカドラマの典型的な美人ケリー(ジェニー・ガース)に学習障害をもつ天然キャラのドナ(トリ・スペリング)、女優の息子スティーブ(アイアン・ジーリング)に裕福ではない家の秀才眼鏡っ娘・アンドレア(ガブリエル・カーテリス)、可愛い後輩デビッド(ブライアン・オースティン・グリーン)なのだが、今作では役者本人を演じるドキュメンタリードラマ風。昔の裏事情や暴露話もてんこ盛り。

 実際、ビバヒルのメンバーには負の歴史もある。スキャンダルや途中降板のトラブルもあり、「病んでる人間の宝庫だった」と表現。そのへんも隠さず、まるっときっちりエンターテインメント作品に仕上げた。この潔さと毒気が日本のドラマ界にはないんだよね。テレ朝「やすらぎの刻~道」には近いものがあったけれど、本人の役ではないし。

 さらに、この7人をスターではなく「過去の人」扱いで、実に痛々しいスタートを切らせる。若造から「発情したティーンエイジャーの元アイドル坊や」呼ばわりされるジェイソン、変なスピリチュアル信仰に傾倒、動物愛護主義過激派になっちゃったシャナン、夫から離婚を求められたジェニー、裕福なはずが実は火の車のトリ、昔のように女性を口説こうにも、セクハラ扱いされるアイアン……。

 この20年でアメリカのエンタメ業界も激変したことを物語るエピソードが興味深い。ラブシーンへの過剰な配慮(女優が嫌な思いをしていないか確認するインティマシーコーディネーターが登場)や同意書の要求(現場で恋仲になっても、後でセクハラやパワハラではないと証明するため)などはかくあるべしとも思う。ガブリエルがレズビアンに目覚める「遅咲き」も今の時代ならではの説得力がある。

 アメリカの俳優たちのギャラ交渉に脚本への口出し、放送枠争奪の熾烈な競争を描くところは、実に冷酷で世知辛いが合理的だと思う。

 ブライアン夫妻が巻き込まれる騒動はサスペンスタッチで実はコメディ。抜かりなくエンタメ。容赦ない脚本と展開には胸が高鳴る。

 一度も観たことがない人には厳しいが、若い頃にハマった人は爆笑必至だ。日本でこの手の作品は到底無理。不謹慎に不寛容だから。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年4月9日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。