竹増貞信(ローソン代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
未来のコンビニへ
佐藤 そこで難しいのは、食品だとフードロスという形で廃棄せざるを得ないものが出てくることです。
竹増 ええ。ここはもう踏み込んで行かなくてはいけないと思っています。24時間営業は、24時間売れることが前提です。そこで売れ残りを出さないように、私たちは5年前より、直近数日と前年のシーズナルデータ、翌日の天候などから、AIで翌日の最適発注数を作っています。そこにオーナーさんの意思を入れてもらって、商品を発注してもらう。
佐藤 それは興味深いですね。
竹増 AIだけにしないのは、明日は「からあげクン」を推して売ってみようとか、季節感を出したいからこれを並べようという店ごとのイベントを生かすためです。また恵方巻やクリスマスケーキ、おせちなど催事の商品は基本的に予約をベースにしています。ただそれでも当然、売れ残るものは出てくる。だからローソンでは設立当初より、消費期限の迫った弁当やおにぎりをお店の判断で値引く「見切り販売」を実施しています。
佐藤 AIのオーダーもあくまで予想ですからね。
竹増 日本の食品ロスは年間約643万トンあり、ローソンでは年間約4・4万トンです。その一方で、国内には7人に1人の子どもが十分な食事をとれていない現状があります。そこで昨年、愛媛県と沖縄県のローソンで、食品ロス削減プログラム「Another Choice」という実験をしました。消費期限が近い商品を購入することで、購入者には5ポイントが付与され、同時に対象商品の売上額の5%が、食事が十分でない子どもたちに寄付される仕組みです。
佐藤 それはいい試みですね。
竹増 自分たちの生活だけじゃなくて子どもたちの食につながるということで、大きな期待を寄せたのですが、ただ満足な結果が出ませんでした。ポイントの付与とか、午後4時から11時までのこのシールの商品とか、ちょっとわかりにくかったんです。
佐藤 なるほど。
竹増 だから今度はもっとストレートに「これを買っていただいたら、子どもたちに食事が届きます」というような形でできないかと思っています。
佐藤 このあたりにもデジタルが使えるかもしれませんね。
竹増 「見切り販売」も店内で表示するだけでなく、その情報をお店の近隣にいるお客さまのスマートフォンなどに伝えることはできるでしょうね。
佐藤 それがうまく機能すると、ロスは確実に減りますよ。
竹増 そういう試みをどんどんやっていきたい。いまはお客さまのニーズに、私たちのデジタル化が追いついていないのだと思います。またデジタル技術の進化するスピードも速く、そこにも追いついていないところがあります。
佐藤 さらに言えば、何かをやり始めた途端、新しい技術が出てくるということもあるでしょうね。話題になった無人レジのために商品につける電子タグは、いまどういう段階なのですか。
竹増 経産省とともに取り組み、実験店を作り、実証実験も終わっています。2025年に全国で一斉導入を目指すことになっていますが、問題はタグがどれだけ安くなるかですね。また、小売りの私たちだけにメリットが出て、設備投資や貼るコストなど、サプライチェーンの上流にはあまり出ない。どこがリーダーシップをとって、利益をどう分配するかを考えなくてはいけません。
佐藤 全体の仕組みづくりがまだなのですね。
竹増 ローソンとしては、それに頼っているだけではいけないので、店内のカメラによる画像認証と棚に設置した重量センサーの重量認証で商品を識別して、持ち出すだけで登録したカードなどから自動決済される「ローソンゴー」を開発しています。電子タグの場合は、読み取り機械を置かなくてはいけませんが、これはその必要がありません。今年の夏までに第1号店ができると思います。
佐藤 なるほど、電子タグじゃない方向性もある。これからスクラップ化されていく技術もいろいろ出てくるでしょうね。いま顔認証がどんどん進んでいますから、指紋認証などはなくなるかもしれない。
竹増 医療分野での遠隔治療では、顔が映ると、その人の健康状態がわかると言いますね。
佐藤 AIはバイオテクノロジーと結びつくと、飛躍的に大きな変化を社会にもたらすと思います。顔認証等の生体認証技術が進めば、店に入っただけで「今日のあなたの体調からすると、このお弁当がいいですよ」「お菓子は糖分控えめがいいですよ」と勧めてくれるかもしれない。
竹増 実はそういう話もしているところです。来店されたら、今日はこのビタミンが足りないから、サラダを推奨するとか。
佐藤 あと10年くらいでそういう世界になるんじゃないですか。コンビニには、まだまだ大きな可能性が広がっています。これからの店づくりが楽しみです。
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