竹増貞信(ローソン代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
商店街なきあとに
佐藤 私の自宅近くのローソンは、わりとお客さんに声掛けをしていますね。挨拶はもちろん、子どもに「パパに買ってもらったの、よかったね」とか。たぶんオーナーがコミュニケーションを重視しようとしているんでしょうね。
竹増 そういう店としての温かみをどう残していくかが、大きな課題ですね。そのためには、やはりデジタルで仕事を効率化してオーナーさんやクルーさんの負担を軽くしていくことが必要になってきます。
佐藤 一番の問題はレジですね。郵便や公共料金の支払いもあるし、会計も、現金もあれば電子マネーもある。しかもクレジットカードだったりポイントだったりして、何種類ものお金に対応しなくてはならない。
竹増 キャッシュレス化が進んできたといっても、店頭ではまだ7割の方が現金払いです。だからキャッシュレスの方向だけに走ってもいいのか、レジがなくなったら現金のお客さまはどうするのか、ということになる。ですのでそこは個店対応で、セルフレジにしても大丈夫な場所はそうするし、コミュニケーションを取ることが必要な場所は、レジを大事にしたお店作りをしていこうと思っています。
佐藤 同じ看板でも、中身は違う店になっていく。
竹増 ローソンは一律、こういうお店ですよ、という時代は終わります。同じ看板だけれどもオーナーさん、クルーさんの人柄がお店に出ている。そういうフランチャイズにしていこうと考えています。
佐藤 そうした個店経営の方針はどのように決まったのですか。
竹増 私は三菱商事から6年前にローソンに来ましたが、そのとき、いまひとつコンビニ、ローソンという店舗がイメージできなかったんです。私が生まれ育った地域には、たぶんできた順番では1桁台のローソンがあって、そこによく行ってはいました。でも昔、コンビニが取り上げられるのは、新聞なら社会面が多かったですよね。
佐藤 ネガティブに取り上げられていた時期がありました。
竹増 地域住民から「コンビニ来るな」とか「コンビニ弁当ばかり食べて」とか、否定的なニュアンスで語られることが多かった。そのイメージがありましたから、どんな仕事をしたらいいのだろうと、まず思った。
佐藤 確かにコンビニが地域社会を壊すようなイメージでしたね。
竹増 私はいま50歳で、ギリギリ商店街で育った最後の世代だと思います。だからそれ以下の世代は、もう全国均一の無味乾燥なコンビニしか知らない、と思っていました。ところが全国のお店を訪ねてみると、私が商店街のお店に持っていたような愛着や親しみを、その世代はコンビニに持っていたんですね。逆にオーナーの方々も、地域の子どもが育っていくのを楽しみにして、入試や就職の時には、自然に「がんばってね」と言葉をかけたりしていた。
佐藤 商店街の駄菓子屋や飲食店がコンビニに変わったんですね。
竹増 そうした現場を見て、同じ看板で同じ店ではなく、実際はその街その街でいろんな店ができている、と思ったんです。そして今回の一連の問題でいろいろな意見を聞くうち、その方向性が確かめられたというか、これで間違いない、と強く思いました。もう北海道から沖縄まで一律のお店でなくてもいいんですよ。
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