竹増貞信(ローソン代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
誕生から40年余り、これまで成長を続けてきたコンビニ業界は、昨年の24時間営業騒動を機に数多くの問題点が表面化した。その中で業界第3位のローソンは、全国一律、平準化された店づくりから、地域密着の「個店対応」へと大きく舵を切った。彼らが目指すコンビ二の未来像とは。
佐藤 昨年2月にセブン-イレブンで起きた24時間営業への異議申し立てから、コンビニを巡っては、さまざまな問題が提起されてきました。
竹増 あれからもう1年が経ちますね。経済産業省でも有識者会議が立ち上がって、先日、報告書が出ましたが、私たちもいろいろなご意見をいただいてきました。ローソンは本部と加盟店の距離が近いと思っていますし、いろいろコミュニケーションをしてきたつもりですが、私たちと加盟店がいくら意思疎通をしたとしても、それは内部のものでしかない。社会から見たときに、価値観がちょっとズレているところはあったと思います。
佐藤 どんな組織でも内部と外部の価値観のズレはあります。私など、外務省の内部の価値観で動いていたために、東京地検特捜部に逮捕されてしまった。でも内部には内部なりの論理がありますからね。
竹増 24時間営業に関して、ローソンでは以前から時短のパッケージもありました。問題になる前でも42店舗が導入していた。それは契約書にも書いてあり、オーナーが選べます。ただそれでは不十分なので、昨年3月、全店のコンピュータに、その仕組みがあることを再確認するメッセージを送りました。
佐藤 いまローソンは何店舗あるのですか。
竹増 国内で1万4400店舗です。6500人のオーナーがいます。
佐藤 それだけオーナーがいれば、さまざまな意見があるでしょうね。
竹増 そうですね。もちろんそこからも意見や要望を聞いて、「ここは今までやってきた通りでいいな」とか「そこはもっと変えていかなくてはいけないな」と、いまの仕組みの問題点をもう一度、洗い直しているところです。
佐藤 日常生活に一番近いところでのビジネスですから、一度、悪いイメージがつくと大変です。
竹増 そうです。これから「人手不足」は避けて通れません。この問題をどう解決していくかが、非常に大きな課題になります。ただ無人コンビニは、私たちが目指している店舗とはちょっと違うんです。レジを取り払って自由に買い物ができるようにすることと、無人店舗はイコールではない。
佐藤 確かにその通りです。
竹増 いろいろなロボティクスやデジタルテクノロジーを使って作業をどんどん効率化していかねばなりませんが、やはり人を介した温かいサービスであるとか、清潔できれいなお店であるとか、そうした店舗としての魅力もきちんと担保していきたいのです。
佐藤 なるほど、ただの自動販売機にするのではない。
竹増 例えば、六本木ヒルズのお店なら、IT関係企業の非常に忙しいお客さまが多いので、そこで一番求められるのはスピードということになるかもしれません。その場合、「これが新商品です」とか、「本日はこういうものがありますよ」という接客ではなく、いかに早くスムーズにモノを買っていただけるかに重点を置く必要がある。一方、地方やこの東京でも高齢者の1人暮らし、2人暮らしの方が非常に多い地域があります。そこでは効率第一のデジタル化した店舗ではなく、お客さまの要望にきめ細かく対応していく接客が求められます。
佐藤 これまでコンビニはどこも一緒で同質性が重視されてきました。
竹増 コンビニは昭和に生まれて、平成で育って、全国一律、平準化したサービスを提供することで成長してきました。でもこれからは地域ごと、その場所ごとに、そこで営まれている暮らしに寄り添うことができなければいけない、と考えています。つまり「個店対応」にしていく。その街にあったお店を、いかにオーナーさんと一緒に作っていけるか、ここが重要です。今年は「ローソン・Reborn元年」として、そうした取り組みを始めています。
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