新型肺炎による五輪延期、追加コストは 頭を抱える協賛企業と選手たち

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「もう一度、麓から」

 延期のもたらす課題は、カネの話だけに留まらない。

 今後の展開を戦々恐々としながら見守っているのは、五輪の“主役”である選手たちも同じだ。

 400メートルハードルの日本記録保持者で、3度の五輪出場経験がある為末大氏が選手の心情を代弁する。

「五輪に向けての調整は、ドミノをひとつずつ並べる作業に似ています。陸上競技では、まず五輪前年から半年ほどかけて有酸素運動や筋力トレーニングを積み重ねていく。本番を4カ月後に控えた3月からは走りを研ぎ澄まし、7月の五輪で全力を発揮できるよう調整するわけです。つまり、3月に“延期”を言い渡されるのは、山頂まで残り3合のところで“もう一度、麓から登ってください”と言われるのに等しい。また、いまの状況で完全に公平な代表選考は難しく、スポーツ仲裁裁判所に提訴するケースも出てくるのではないでしょうか」

 スポーツ紙デスクも代表選考の難航を懸念する。

「20代後半から30代の選手にとって1年間の延期は肉体的にも精神的にもかなり酷だと思います。それに、内定維持を表明した卓球はともかく、ほぼ全階級で代表が出そろっていた柔道では再選考の可能性が出てきました。金メダルを宿命づけられている競技なので、最強の布陣で臨みたいと考えるのは分かりますが……。競泳は“一発勝負”の代表選考会と位置づけていた今月2日からの日本選手権を中止。現在の選考基準の有効期限が来年3月末で切れるため、来夏の開催だと、代表を選び直すことになりかねません」

 それ以外にも、世界ランク15位以内が代表入りの条件となるゴルフでは、全英オープンを制した渋野日向子が目下、12位で当確圏内につけている。だが、

「1年後までこの順位をキープできるかは不透明」(同)

 一方で、明るい兆しも。

「故障に悩まされているケンブリッジ飛鳥や山縣亮太が復調すると、4×100メートルリレーの代表争いが熾烈になって、メダル獲得の期待も高まる。伸び盛りのサニブラウン・ハキームが日本記録を更新すればさらに勢いが増します。交通事故からの復帰を目指すバドミントンの桃田賢斗や、不振に喘ぐサッカー日本代表の立て直しにとっても1年間の延期は好材料。今季の活躍次第では、千葉ロッテの佐々木朗希が代表入りすることも考えられます」(同)

 災い転じて金メダル、となればいいけれど。

週刊新潮 2020年4月9日号掲載

特集「『コロナ戦線』異状あり 『五輪延期』追加コストの額面やいかに」より

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