驚愕「がん見落とし」率のPET検査 減らすべきは国を破綻させる「ムダな医療」
生存率100%
リストには、個別のがんの検診についても言及がある。
〈前立腺がん検診のために安易にPSA検査をしない〉
〈大腸がんの内視鏡検査は5~10年に1回で十分〉
前者について、
「前立腺がん以外の病気で亡くなった千名以上を解剖したところ、60〜79歳男性の7割ほどに前立腺がんが見つかったという研究結果があります」
とは、『がん検診の大罪』の著者で、新潟大学の岡田正彦名誉教授。
PSAとは、先に述べた腫瘍マーカーの一種である。前立腺がんが出来ると、この数値が上がる。腫瘍マーカー検査で早期の段階でも数値が上がる、ほぼ唯一のがんだと言ってよい。しかし、
「このがんはとても進行が遅く、発見可能段階から転移するまでに10~30年もかかります。症状が出るまでに他の病気や寿命で亡くなることも多い。たとえ早期発見したからといって死亡リスクは変わりません」(同)
実際、前立腺がんの10年生存率はステージ1~2まで100%、ステージ3で97%、ステージ4でも43%である。
「少なくとも、高齢だったり、健康で自覚症状がなかったりする人が受ける必要はまったくありません。仮に見つかったとしても、年齢やステージによっては、治療を受ける必要があるかどうかも議論の余地はあるところです」(同)
治療を受けると、勃起障害や排尿障害など、身体にマイナスを与えることもある、というのだ。
大腸がんについては、
「大腸の内視鏡検査はがんの95%が発見できるなど精度が高く、優れた検査です。50歳を過ぎたら一度は受けることを考えた方が良いと思いますが……」
と、国立がん研究センターの中山富雄・検診研究部部長。これはいわゆる「大腸カメラ」だ。肛門からカメラを挿入し、大腸内を観察。がんやポリープがあった場合は切除する。しかし、リスクもある。
「まれに腸管穿孔や出血、感染症などの『偶発症』があることは理解しておいた方が良いと思います。80歳以上の高齢になると、加齢により腸壁が薄くなっているため、その割合は跳ね上がりますし、大量の下剤により気分が悪くなったり、脱水症状で検査を受けられなくなる場合も多いのです。ポリープが成長してがんになるには10年ほどかかりますから、一度検査をしてがんもポリープもない状態であれば、毎年受けるようなものではありません。次の検査は5~10年後など、適度な間隔を空けることは必要だと思います」(同)
がん検診には、市区町村が行う原則無料の「対策型検診」と、民間機関が行う原則自己負担の「任意型検診」がある。上記に述べたような“事情”もあってか、「PET」「腫瘍マーカー」「前立腺がんのPSA」「大腸がんの内視鏡」の各検査とも、国の推奨する項目には入っていないため、「対策型検診」では、一部の地域を除いてほとんど実施されない。他方で、人間ドックなどの「任意型検診」ではメニューに入っている例もある。十分に注意が必要というワケである。
また、これら「がん検診」を受けるに当たっては、「〇歳以上」という「下限」はあっても、「〇歳以下」という「上限」はもうけられていない。しかし、
「高齢でのがん検診というのはそれ自体、デメリットもリスクも高くなります」
と、中山部長が続ける。
「年を取れば取るだけ、余命が延びるといった発見によるメリットは薄くなり、リスクはうなぎのぼりに上がっていく。80歳を超えても大腸がんの検診を続けた人と、やめた人とを比べた場合、2~3日しか平均余命が変わらなかったというデータもあります。がん検診に年齢の上限をもうけるというのは、世界の常識。先進国のほとんどの国は60代までです。上限が定められていないのは、日本とドイツくらいではないでしょうか」
「Choosing Wisely」の中にも、〈平均余命まで10年未満の人へのがん検診は控えよ〉という項目がある。
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