「スクリーンタイムと消費カロリーの関係」等、世界の興味深い健康関連論文

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 新型コロナ関連に限らず、健康に関する情報にはデマもあれば、ウソみたいな本当の話もある。真贋を見抜くには、とりあえずは何らかの論文、研究の存在は大前提だろう(それでもウソもあるだろうが)。

 東京医科歯科大学教授で医学博士の古川哲史氏は、新著『心臓によい運動、悪い運動』の中で、いくつか興味深い研究を紹介している。以下、同書から我々の生活、とりわけカロリー消費やダイエットと関係が深そうな研究を見てみよう(引用はすべて同書より)。

 まずはスクリーンタイムと肥満の関係だ。

 スマホに「スクリーンタイム」つまりは画面を見ていた時間のレポートが表示される。

「先週あなたが画面を見ていた時間は●●%増えました」という具合に。

 これを見ての反応は様々だろう。

「ああ、道理で目が疲れるはずだ」「またムダな時間を過ごしてしまった……」「結構、減らせたな」等々。

 実は「スクリーンタイム」というのは別にスマホを見ている時間だけを指すわけではない。本来はテレビ、パソコン、スマホ等のスクリーンを見ている1日の時間の合計だ。

 このスクリーンタイムは、医学の研究においてはその人の活動性を評価する方法でしばしば使われるのだという。つまりスクリーンタイムを見ている時間が長いと、その人の活動性は低いし、短ければ高い。

「アメリカのバーモント大学で、36名の被験者のうち20名にテレビの視聴時間を半分にしてもらって3週間、1日の消費カロリーをモニターするという研究が行われました。これによると、テレビ視聴時間が半減すると1日の消費カロリーが120Kcal増えるという結果が出ました。

 これはジョギングにすると20分くらいの消費エネルギーにあたります」

 そりゃその分運動したら当然でしょう、と思われるかもしれない。が、興味深いのは被験者は別に運動量を増やしたわけではないという点だ。

「多くの人が半減した時間を読書したり、ゲームしたりする時間に充てて、その時間を運動に充てた人はほとんどいませんでした。それなのに、スクリーンタイムを減らすことによって消費カロリーが増えるのです。

 スクリーンを見ているよりも少しだけ消費エネルギーの多い活動をすることによって、塵も積もれば山となる、ではないですが、ジョギング20分に相当するカロリーの消費につながるのです」

噛む回数と肥満の関係

「早食いの人は太りやすい」というのはよく言われることだ。カレーは飲み物、などと言う人は大抵太っているイメージがある。ただ、早食い=よく噛まない、と仮定すると、現代人の多くは昔の人と比べて早食いになるという。

 1回の食事で噛む回数は、弥生時代は4000回、鎌倉時代は2500回、江戸時代は1500回、戦前は1400回だったのに、現代はたった620回だという。もちろん昔の方が噛み応えのある食事が多かったからというのも事実だろうが、よく噛むほうが健康には良いという点は知っておいたほうがいいだろう。

「アメリカのアイオワ州立大学のジェームズ・ホリス博士が、18~45歳の45人の男女にピザを好きなだけ食べてもらい、咀嚼回数を通常の100%(いつもと同じ)、150%(いつもの1.5倍)、200%(いつもの2倍)の3つに分け、ピザを食べた量を比較するという研究を行っています」

 結果、食べたピザの量は150%にすると100%の人の9.5%減、カロリーに換算すると70Kcal減、200%の人は14.8%減(112Kcal)減となっていた。よく噛むことで食べる量は少なくなったのだ。

 ここまでは予想通りだが、さらにメリットがあった。そもそも噛む行為そのものでエネルギーが消費されるのだ。東京工業大学の林直亨教授は、男性10人に300Kcalのしょくじをしてもらって、その消費エネルギーを比較する、という実験を行った。

 早食いチームは1分43秒、咀嚼回数137回で完食。彼らの体重1kgあたりの消費カロリーは7Kcal。

 一方、よく噛んで食べるチームは8分17秒、咀嚼回数702回で完食。彼らの体重1kgあたりの消費カロリーは何と180Kcal。よく噛むことで26倍ものエネルギーを消費したことなる。

 さらに、もう一つよく噛むメリットがある。

「噛むことは一種のリズム運動といえます。リズム運動は、脳の中でセロトニンという物質を出して満足感を与えてくれるのでした。したがって、よく噛むことによっても脳の中でセロトニンが分泌されて、『あーッ、食べた。余は満足じゃ』と満足感が得られるのです」

運動するとお腹が空いて食べ過ぎる、はウソ

 なお、運動するとお腹が空いて食べ過ぎるので結局太るのでは?という問題についても複数の研究が行われて結論が出ている。

 結果からいえば、そんなことはない、とのことだ。

「実は、運動することによって食欲がおちるという研究が複数発表されています。英国で行われた研究を紹介しましょう。

 この研究では、男女10人ずつ計20名で運動による食欲の変化を調べています。食欲をどのように調べるかはなかなか難しそうです。この研究では、視覚的評価スケールという方法を使っています」

 10mmごとに区切りが入った100mmのスケール(ものさし)を用意して、左端を「もっとも空腹」、右端を「もっとも満腹」とする。そのうえで自分の満腹、空腹の程度がどこにあたるのかを記入してもらう、というやり方だ。

「なんとも主観的な評価法に思われるかもしれませんが、食欲研究では視覚的評価スケールが今のところベストの評価法と考えられています。

 男女10人ずつに1週間の間をあけて運動中・運動後の食欲の変化を調べる実験を2回行ったところ、運動中は食欲が10~20スケール低下し、運動後の食欲は運動をしなかった場合と明らかな違いがありませんでした。

 この研究だけではなく、多くの研究でエクササイズにより食欲が低下し、エクササイズ後も食欲は増えないという結果が出ています。どうも、一過的にはエクササイズは食欲を落すようです」

 要するに適度な運動はカロリーを消費し、食欲を抑制し、心身に良いということになる。「当たり前だろ」とツッコミたくなる人もいるだろう。しかし、わかっていても実践できていない人が数多くいるのもまた事実。科学的正しさが人間の行動を規定するわけではないのである。

デイリー新潮編集部

2020年4月5日掲載

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