「半沢」は放送延期、「麒麟がくる」は収録中止… コロナでドラマ制作者を待つ“地獄”

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 春ドラマの目玉作で4月19日から始まるはずだったTBS「半沢直樹」(日曜午後9時)の初回が、新型コロナウイルス禍で延期される。14日に開始予定だった同「私の家政夫ナギサさん」(火曜午後10時)と10日のスタートが決まっていた同「MIU404」(金曜午後10時)も一緒だ。撮影が再開されようが、ラブシーンなどの収録は難しい。どうなる、ドラマ界?

 新型コロナ禍によってドラマに影響がもたらされたのはTBSばかりではない。NHKも大河ドラマ「麒麟がくる」(日曜午後8時)と連続テレビ小説「エール」(月~土曜、午前8時ほか)の収録を12日までストップさせる。

「各局とも事情は同じです。まず、感染防止対策を徹底して講じなくてはならない。スタジオ内に置いてあるアルコール消毒液を増やしたり、休憩時間を増やして換気をよくしたり、手洗いの機会を増やしたり」(民放ドラマのチーフプロデューサー)

 ドラマ界特有の対策もある。「唇や顔を近づけるようなラブシーンや出演者同士が接近するシーンは極力、排除しなくてはならないので、脚本の見直しも余儀なくされる」(同民放ドラマのチーフプロデューサー)

 男同士が掴み合うようなシーンも難しいだろう。

 ドラマ界は慎重を期している。それも無理からぬ話だ。お笑い界の宝だった志村けんさん(享年70)がコロナ禍で逝去し、大河ドラマの前作「いだてん」を書いた脚本家・宮藤官九郎さん(49)や、テレビ朝日のヒーロー戦隊番組「魔進戦隊キラメイジャー」(日曜午前9時30分)に主演する俳優・小宮璃央(17)が感染したのだから。

 とはいえ、放送開始日の変更は異例中の異例。近年では、主要キャストの沢尻エリカ(33)が昨年11月に麻薬取締法違反で逮捕されたため=懲役1年6月執行猶予3年の有罪が確定=、初回が1月5日から同19日になった「麒麟がくる」くらいだろう。

 民放の場合、放送開始日を変えるためには全スポンサーの承認を得なくてはならない。ネット局にも連絡し、やはり了解を取る必要がある。もちろん、代替番組も用意しなくてはならず、その作業量は膨大になる。

 もちろん、それより大変なのは感染防止策だ。出演者の命や健康に関わるのだから。ニュース、ワイドショーは3月末から各出演者が座る位置の間隔を空け始めたが、ドラマではそうはいかない。もちろん、マスクは付けられない。となると、まだ撮ってないシーンで、なるべく出演者同士が近づかないようにするしかない。

「私たちの現場では『体調が思わしくない方はどうぞお休みください』と繰り返し呼び掛けています。無理をさせてしまい、現場でクラスター感染が起ころうものなら、取り返しが付きません。できれば現場に来る前に体温を測ってもらいたくて、やんわりマネージャーさんにそう伝えています」(同・民放ドラマのチーフプロデューサー)

 放送開始日を遅らせたTBSの場合、どうやら放送回数を削るらしい。開始が遅れようが、6月下旬には最終回を迎えることが決まっているので、当然そうならざるを得ない。例えば、10回放送の予定が、9回、8回ということになりそうだ。

 このところ、ドラマ界は放送回数を事前に公表しない。それを明かすと、低視聴率で途中終了する際に、「打ち切り」と騒がれてしまうからだ。出演陣に傷を付けないための配慮でもある。このため、放送回数が短縮されたかどうかは視聴者には分からない。

 現在、各局のドラマは5月上旬から下旬までの放送分を撮り終えているという。なので、画面上に新型コロナ禍の影響が表れるのは、それ以降。脚本家、演出陣は頭を悩ませている最中に違いない。

 その上、収録後もドラママンたちの苦悩は続く。

「編集室、MA(マルチオーディオ)室は大半が密閉空間そのものなのです」(同・民放ドラマのチーフプロデューサー)

 収録した映像はまず編集する。さらにMA作業でナレーションや効果音、BGMなどを入れて、完成品となる。編集室、MA室は密閉されている上に人口密度が高い。ここでの感染を防ぐこともドラマ界の課題になってくる。

 これに問題は留まらない。7月スタートの夏ドラマの収録が待っている。既に各局とも企画は決まっており、発表待ちの段階だが、やはりコロナ禍問題が壁として立ち塞がる。脚本の修正を迫られるだろう。

 おまけに五輪延期の問題もある。NHKも含めた放送界は五輪延期によって約1000時間もの放送枠がぽっかり空いてしまった。コロナ禍の影響で夏ドラマの放送回数を伸ばすことは至難だろう。となると、どうやって空いた放送枠を埋めるのか…。

「7月以降の編成をどうするかははっきりと決まっていません。白紙に近い状態と言ってもいい」(同・民放ドラマのチーフプロデューサー)

 前代未聞のことだが、やむを得ない話だ。1000時間もの放送枠が雲散霧消したことなど過去にないし、感染症がドラマの収録に影を差したことも初めてなのだから。

 中止こそ免れたものの、五輪が延期になったことで、民放各社は莫大な損害を蒙った。そのマイナス額は民放各社とも軽く数十億円単位かそれ以上と目される。各局とも「東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会」に職員を派遣しているが、延期によってその人件費負担も加算される。深刻な事態に陥っているのはドラマばかりではない。

 総世帯視聴率が減り続けているとはいえ、産業としてのテレビ界は不沈艦とも言われてきた。だが、さすがにコロナ禍は深刻だ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年4月5日掲載

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