5種類以上の薬の服用は要注意… 国を破綻させる「ムダな医療」

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残薬年間1兆円!?

〈五つ以上の薬を使っている人に医薬品を処方しない〉

 お年寄りが毎食後、何錠もの薬を取り出し、一気に飲み下す――という光景をどこかで見た向きも少なくないだろう。これは「多剤服用」と言われる。

 年を重ねれば、高血圧に高コレステロール血症、認知症など、心身のあちこちにガタが来る。患者は症状ごとにそれぞれの病院や診療科にかかるケースが少なくない。高血圧なら循環器内科、認知症なら神経内科に向かい、それぞれで薬を処方される。

 そして、ある薬で副作用が出ると、別の薬で手当てしようとし、それを繰り返す。これは「処方カスケード」と呼ばれるが、こうした理由で、薬がどんどん増えていくのである。

 2016年の保険薬局における調剤統計によれば、75歳以上の約25%が7種類以上、約40%が5種類以上の薬を処方されているというが、

「これだけたくさんの薬を飲むと、当然、さまざまな弊害が出る可能性があります」

 と言うのは、「たかせクリニック」の高瀬義昌理事長である。高瀬氏は、厚労省による「高齢者医薬品適正使用ガイドライン作成ワーキンググループ」のメンバーでもある。

「高齢になると、肝臓や腎臓の機能は低下していきます。肝機能が低下すると、薬を代謝する能力が落ち、腎機能が落ちれば、老廃物を尿、そして体外へ排出する能力が落ちます。そうなると若い時よりも薬が身体に影響を及ぼしやすくなり、副作用も増すのです」(同)

 それが何種類も、となるのだからそのデメリットは計り知れない。

 東大病院の調査によれば、5種類以上の薬を2年間に亘って併用した高齢者は転倒の発生率が40%にも上った。6種類以上服用した高齢者は副作用の発生率が15%になったという。

「私が診たケースでも、20種類も処方されている患者さんがいました。認知症で神経内科に通い、神経伝達物質・アセチルコリンを増やす薬を処方されていました。一方で、頻尿に悩んで泌尿器科に通い、排尿の回数を減らすために、今度はアセチルコリンの働きを阻害する薬を処方されたんです。これを両方服用して精神神経症状が不安定になり、重篤な状態になっていました」(同)

「お薬手帳」があれば、あるいは機能していれば、こうした弊害は防げたのかもしれない。

 このように、多剤服用によって、身体に害が及んだ状態を「ポリファーマシー」と言う。

 そして当然、これは医療費の膨張にもつながる。

「副作用の方が大きいような薬を飲み続けるのは無駄です。あるいはこれだけ多くの薬を処方されても飲みきれず、家にためこんだり、もらう度に捨てたりしている人もいる。私自身も、179日分、5千錠の薬を放置していた患者さんを見たことがあります」(同)

 17種類もの薬を処方された患者を見た高瀬理事長。それを4種類に減らしたところ副作用はなくなり、年間の薬代(保険適用前)は26万円も下がった。

 こうした「残薬」は国全体で莫大な量に達している。やや古いデータだが、2007年度、日本薬剤師会の調査によれば、日本で年間、約500億円分の残薬が出ているという。

「しかし、これは、患者が家で服用するために処方された薬のうち、捨てられてしまった『家庭内残薬』。これとは別に医療機関で捨てられる『院内残薬』も年間1千億円以上あると言われています。これでも氷山の一角で、実際の残薬は年間1兆円ほどになるのでは、と疑っているくらいです」(同)

 1兆円がもし浮けば、どれほど財源に余裕が生まれることか。国も「ポリファーマシー」を問題視し、2018~19年に「適正使用の指針」を取りまとめている。

週刊新潮 2020年4月2日号掲載

特集「国を破綻させる『ムダな医療』後篇」より

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