アメリカ歴代大統領の通信簿 人気投票ではなく実績で5段階評価

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A評価の5人

 さて、それでは、アメリカ大統領に通信簿を付けるとして、私が5段階でAを与えているのが誰かと言えば、ワシントン、ポーク、リンカーン、セオドア・ルーズベルト、フランクリン・ルーズベルトの5人である。

 初代大統領ジョージ・ワシントン(1789~97)。アメリカ合衆国大統領というポストは、ワシントンという適任者がいたから創始されたと言われるくらいであるから、別格的存在である。風貌、物腰、人望などどれをとっても、「あらゆるヨーロッパの王侯より君主らしかった」といわれる。

 第16代大統領エイブラハム・リンカーン(1861~65)は奴隷解放ばかりが強調されるが、南北戦争の指揮、経済対策、戦後の見通しなど万般にわたって非常に緻密で鋭く、どこから見ても優れた大統領だ。ユークリッドの幾何学の心酔者でありイソップ物語の愛読者だったが、それぞれから明快な論理性と温かいユーモアを学んだ。

 そして、演説の見事さ、ディべートにおける強さ、誠実さ、敵に対する包容力、クリーンというのも美点である。「丸太小屋からホワイトハウス」というアメリカン・ドリームを体現した経歴も、アメリカ民主主義のシンボルとしてふさわしい。

 第11代大統領ジェームズ・ポーク(1845~49)は無名だが、アメリカの領土をカリフォルニアやシアトルなど北西部へ広げ、財政や関税政策の革新などを実現した。初めに目標を正しく設定し、1期4年を猛烈な仕事ぶりで献身的にやりとげ、1期だけで退任するや疲労困憊したのかすぐに死んでしまった。派手好みのアメリカ人からはベストテンにはなんとか入る程度の評価しか受けていないが、文句の付けようがない完璧な業績であって、リンカーンと並ぶ高い評価をするべきだ。私の好きなタイプの指導者だ。

 総合的に見て、戦時のリンカーン、平時のポークを持って最高の大統領としたい。

 第26代大統領セオドア・ルーズベルト(1901~09)と第28代大統領ウッドロウ・ウィルソン(1913~21)については、どちらを評価すべきか意見が分かれるところである。かつては、理想主義的な色彩が強いウィルソンの人気が高かったが、思想家としてはともかくウィルソンの政策は政治的な未熟さから現実化していない。また、最後のころは経済政策が粗雑となり、病気に倒れると人にも会わずに大統領を続けたのも評価できない。

 一方、セオドア・ルーズベルトは、彼の軍事力を背景にした脅しを伴う「棍棒外交」に批判はあるが、日露戦争を終結させたポーツマス条約の斡旋にみられるように現実的で公正な成果を十分に上げていることを評価すべきだと考え、最高ランクとみる。

 第32代大統領フランクリン・デラノ・ルーズベルト(1933~45)は、経済については、ニューディールに類するケインズ的財政出動政策は日本を含む多くの国で実施していたし、戦争が始まったので行き詰まりが打開された面もあるので、かつてされたほどの評価はできない。

 外交政策においてもスターリンを甘く見たり、蒋介石を過大評価したことが東西冷戦や中国での共産党政権の誕生など、戦後の混乱につながったし、日本にとっては、災難だった。だが、ラジオなどを駆使した国民との対話力とか、裏を知り尽くしたジョゼフ・ケネディ(ジョン・F・ケネディ大統領の父親)を証券取引委員会の初代委員長に抜擢したような驚異的な人事の巧妙さなども含めて、有能な大統領だったことは確かだ。

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