CT検診に潜むリスク、高齢者にコレステロール降下薬は不要 国を破綻させる「ムダな医療」

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国を破綻させる「ムダな医療」(2/4)

「国民皆保険」「高額療養費制度」のおかげで、患者はわずかな負担によって治療を受けられ、残りは公費と保険料で賄われる――。そんな日本の医療システムにより、医療費は膨張の一途を辿り、国の財政赤字も増加している。メスを入れるべきは“ムダな医療”。アメリカ発祥の「Choosing Wisely(チュージング ワイズリー)(賢い選択)」は、ムダをピックアップし、リストを公開する運動だ(前回参照)。(以下は「週刊新潮」3月26日号掲載時点の情報です)

 ここで挙げられている例を実際に見ていきたい。まずは、

〈認知症では無計画にコリンエステラーゼ阻害薬を処方しない〉

 認知症患者は2012年時点で約460万人。25年には約700万人に到達すると推計される“国民病”だ。

 認知症の中でもっとも多いアルツハイマー型において、日本で保険が適用されている薬は4種類あるが、うち三つが「コリンエステラーゼ阻害薬」である。これは脳内の神経伝達物質「アセチルコリン」の量を増やすことで、認知症の症状を改善したり、進行を抑えたりする薬だ。商品名では「アリセプト」「レミニール」「リバスタッチ/イクセロン」である。

 厚労省のレセプト情報データベース・NDBによれば、2017年度、外来で「アリセプト」「レミニール」は約840億円分処方されている。

 しかし、である。

「これらの薬については、フランス政府が有効性と安全性のバランスが不十分として、一昨年の8月に保険適用から外しています」

 と述べるのは、『認知症、その薬をやめなさい』の著者で、「たかせクリニック」の高瀬義昌理事長である。

 例えば、アリセプトについては、患者への認知症テストでプラセボ(偽薬)群と比べ、30点中、わずか1点しか差が付かなかった調査もあった。長期的な期間での効果はまだ十分にわかっていない。他方で、副作用はもちろんある。

「下痢、吐き気、嘔吐、食欲不振といった症状が出ることもある。覚醒レベルが高まって、饒舌になったり、動き回ったりするようになる、暴力行為が見られるといった症状に見舞われることもあります」(同)

 もちろんこれらの薬を飲むな、というワケではない。が、数カ月程度、服用した上で、効果が薄く副作用が多いのであれば、無計画に飲み続けるのではなく、対応を検討することが望まれる。

 続けて、認知症と並び、高齢者が気になる「血圧」と「コレステロール値」。両者とも、下げれば下げるほど良いに決まっている……そう思うのが普通だが、

〈75歳以上の高血圧は下げすぎに留意する〉

〈高齢者にLDL(悪玉)コレステロールを下げる薬は不要〉

「Choosing Wisely」のリストの中には、そんな指摘もあるのだという。

「血圧を下げた方が、脳卒中などのリスクは下がる。これは事実です」

 と解説するのは、「武蔵国分寺公園クリニック」の名郷直樹院長である。

「しかし、高齢者について、それにどれくらいの効果があるのかは知っておくべきでしょう。例えば、70代で正常血圧の人が5年間に脳卒中を起こす割合は3%。それに対し、上が160mmHgの人の割合は10%です。こう見ると違いはあるようですが、年率で見ると1年で1%ちょっと。つまり、1年につき、100人に1人の割合しかリスクは下がらないのです」

 あるいは、80歳以上で、上の血圧が平均173の人と、薬で上の血圧を15下げた人のグループでは、脳卒中の割合が年率1・77%から1・24%に下がる、というデータもある。これもそう大きな違いとは言えないのは明らかであろう。

「若い人ならともかく、それほど人生の残り時間が多くない高齢者にとって、薬を毎日飲んで、この程度のリスクを下げることにどこまでメリットがあるかは慎重に考えるべきでしょう。140と150とか、130と140なんて、高齢者には微々たる差であり、寿命とほとんど関係がない。他方、血圧を下げ過ぎれば、立ち眩みや眩暈といった副作用も出てくるのです」

 LDLコレステロール値についても同じで、

「70歳以上の高齢者を対象にした、コレステロール降下薬のランダム化比較試験では、薬を服用した群の方が、心筋梗塞の予防効果はあるものの、寿命にはまったく差がないという報告もあります。また、総コレステロール値と寿命の関係で見ても、基準値より高かった人の方が長生きするという結果もあるほどです。コレステロール値を下げるために高齢者に処方されるのは、スタチンという薬が主ですが、まれに横紋筋融解症という、筋肉痛やしびれに見舞われる、重い副作用があります」

 両方の値とも、低いに越したことはない。けれども、数値を独り歩きさせ、高齢者を薬漬けにし、無理に下げるような治療は慎むべき、ということなのである。

 そして前出のNDBによれば、2017年度、「血圧降下剤」は約4039億円分、スタチンを含む「高脂血用剤」は3125億円分もの巨額が処方されている……。

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