「麒麟がくる」“染谷将太の織田信長”に賛否 敢えて違和感を狙った起用のワケ

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染谷将太と桶狭間

 2番目の表は【1989~2009年】だ。89年の「春日局」から2009年の「天地人」まで、7作品をご紹介する。

 2番目の表を見て碓井氏は「渡哲也さん(78)の信長にも、鮮烈な印象を受けました」と振り返る。

「96年の『秀吉』は主役が竹中直人さん(64)でした。才能溢れる、素晴らしい役者さんですが、一部の視聴者から『秀吉のイメージが壊れる』、『演技が過剰』と批判されたこともありました。まさに竹中さんの秀吉は“動”だったのです。それもあって渡さんの信長は“静”を強調したのでしょう。“うつけ者”や“激しい気性”、“冷酷非情”という側面は抑え気味にして、信長という人間の深さ、奥行きを提示したわけです。秀吉が『この上司のためなら、何でもする』と心酔できる信長像を提示した。その点が斬新でしたし、実際に石原軍団のまとめ役を務める渡さんにとっては、ある種のはまり役だったと思います」
 最後の表は【2011~20年】だ。11年の「江~姫たちの戦国~」から、現在放送中の「麒麟がくる」まで、5作品を記載した。

最後の表に碓井氏は「豊川悦司さん(58)の信長も、私たちを楽しませてくれました」と言う。

「豊川さんの演じた信長は西洋文化に精通し、当時の日本人には無縁だった近代的精神を持つ男でした。『江~姫たちの戦国~』のファンなら、和服より、シャツやマントといった洋服を着た信長に強い印象を持ったのではないでしょうか。信長には、日本の旧弊を改めようとする、“改革者”としての顔があります。そうした側面に光を当てた豊川さんの信長は、やはり独創的だったと思います」

 以上を踏まえ、「染谷さんの信長をどう思うか」を訊いた。碓井氏の答えは「とても面白く拝見しています。完全な肯定派ですね」

「これまで大河ドラマで、16人の役者さんたちが演じた信長とは全く違うキャラクターを作ったということだけでも、高く評価したいですね。何を考えているのか分からない信長、ということになるでしょうか。染谷さんの信長は頭が切れ、ユーモアのセンスも持ち、飄々としながらも、一瞬、狂気じみた表情を見せます。信長の既成概念を壊しているところが最大の魅力ですから、確かにこれは諸刃の剣です。驚いて引き込まれる視聴者がいる一方、違和感を持つ視聴者がいるのも当然だと思います」

 なぜ「麒麟がくる」は、従来にない信長像を提示したのか。碓井氏は「意外にシンプルな理由ではないでしょうか」と推測する。

「『麒麟がくる』の主役は、あくまでも明智光秀です。それこそ、過去の大河ドラマでは信長を殺す悪役として描かれてきました。つまり『麒麟がくる』というドラマ自体が、明智光秀を善玉とすることで、これまでのイメージを変えようとしているわけです。ならば当然、信長のイメージも変えないとバランスが取れません。染谷さんの演技を、『この信長は悪役になる可能性がある』という観点から見てみると、面白さが倍増するのではないでしょうか」

 特に史実を描いたドラマの場合、「従来にはない斬新なキャラクター」を作ろうとすると、演出家も役者も往々にして肩に力が入り、気負った演技になってしまうことがある。

 碓井氏は「染谷さんの演技は、向こうを張るようなところが微塵もなく、非常にナチュラルです」と評価する。

「無理に作り上げたような演技ではないので、“意外な信長像”にも説得力があります。染谷さんの信長は、次に何をするか予測できず、動きに目が釘付けになってしまいます。次第にファンが増えてきたようですが、最初の山場は桶狭間の戦いでしょう。この合戦ではヒーローとして信長を描くのか、それとも、この時点から悪役的な要素を見せるのか、今から楽しみです」

週刊新潮WEB取材班

2020年4月2日掲載

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