賀来賢人主演「死にたい夜にかぎって」優しさってこういうことだよ 「頭ぽんぽん」で喜んでる場合じゃねえぞ

  • ブックマーク

 こういう男性がもっと増えたら、日本のジェンダーギャップ指数も少しは順位を上げるのでは、と思うドラマがある。賀来賢人主演「死にたい夜にかぎって」だ。

 賀来が演じる浩史が実に女性に優しい。優しいだけでなく、女性に対して差別もしないし、蔑みもしない。恋人をお前呼ばわりもしない。決して否定せず、相手をいったん受けとめるし、受け入れる。懐が深いとか寛容を超えて、鈍いのかと思うほど優しい。なんとなく「ぺこぱ」の漫才に似ている。松陰寺太勇(たいゆう)のようにツッコむと見せて、否定しない・怒らない・受けとめる、むしろ自分の非を反省する。でも自虐ではない(自虐って裏を返せば、上から目線だったりするからね)。このドラマにおける賀来の言動には、そんな「ぺこぱ的」な味わいがあるのだ。

 浩史は幼少期に母に捨てられ、父(光石研)からは虐待レベルの躾(しつけ)で育てられた。高校で一番カワイイ、ドS女子(玉城ティナ)からは毎日屋上でビンタされ、厄介な性癖の解消のはけ口にされる。「笑った顔が虫の裏側みたい」と言われ、自分の笑顔にトラウマもある。

 チャットで知り合ったアスカ(山本舞香)と意気投合。彼女は変態に唾を売って生活していたが、同棲することに。アスカにはうつ病と不安障害があり、普通には働けない。薬への依存を恐れ、断薬に挑むが、精神状態は芳しくない。アスカに首を絞められて起きる毎日。しかも、彼女は外でどうやら浮気をしている。

 バイトをしながら小説を書いていた浩史は、生活を支えるために編集プロダクションに就職。ラッパーしかいない謎の職場で編集長となるも、アスカの癇癪(かんしゃく)に振り回されっぱなしの日々。セックスレスの不満は風俗店で解消……そんなふたりの6年間を描いていく。

 とにかく賀来のテンションと自意識が低めで、好感が持てる。この役に邪魔な「端整な顔に美しい筋肉」をしれっと封印。次々と起こる絶望を淡々と前向きに消化していく健気さもいい。女性を力ずくで御したり、支配しようとはしない。豊富な語彙力と発想の転換。時折、他の女性に邪念を抱くが、山本への愛を貫く。

 山本も小悪魔的な横暴さと精神的脆さの混在をうまく演じていて、心奪われる。可愛いし、危なっかしいけれど、媚びない女役が秀逸。以前は、顔も演じる役も二階堂ふみとかぶると思っていたが、相当な場数を踏んで、ふみを超えた気がする。

 この2人の奇妙なバランスの恋愛を「若気の至り」と笑うか、「次の恋への糧」と学ぶか。いずれにせよ令和にぴったりな恋愛ドラマだと思った。もうさ、相手に本音を言えない女とか、俺様気質の男とかうんざり。日本の恋愛ドラマはまどろっこしいし、女が馬鹿に見えて仕方ない。このドラマくらい、知的にも性的にもヒリつかせてくれよと思う。

 好きな場面は、職場でヤリマンと蔑まれるラッパー女子(小西桜子)に、賀来がわざわざ帰宅して取ってきたアフターピルを渡すところ。優しさってそういうことだよ。頭ぽんぽんだのバックハグじゃねえぞ、と。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年4月2日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。