コロナ対策で「文在寅」の人気急上昇 選挙を控え「韓国すごいぞ!」と国民を“洗脳”
世界中の国が新型ウイルスと闘う中、韓国では国民が2つに分かれ争う。韓国観察者の鈴置高史氏が「肺炎と政争」を読み解く。
4月の総選挙は左派が勝つ
鈴置:韓国の保守系メディアが相次ぎ「4月15日の総選挙では文在寅(ムン・ジェイン)大統領が率いる左派が勝つ可能性が高い」と危機感を表明しました。
私が見た限り、いち早く唱えたのは在野保守の指導者、趙甲済(チョ・カプチェ)氏。総選挙1か月前の3月15日に、自身が主宰するサイトに「投票1か月前のやや冷静な形勢分析」を載せました。
第1野党で保守派の中核をなす未来統合党が過半数の議席を得るのは難しい、と趙甲済氏は予測。理由は(1)選挙戦を有利に戦おうと保守が中道左派と統合したことが、伝統的保守層の反発を買った(2)文在寅政権が新型肺炎で一生懸命にやっているとのイメージ作りに成功した(3)新型肺炎が世界的な経済危機を呼ぶほどに、野党の政権批判が国民の耳に入らなくなる――です。
趙甲済氏の“予言”が当たりました。韓国ギャラップが3月24―26日に「国政への評価」を聞いたところ「文在寅大統領はよくやっている」と答えた人が前週比6%ポイント増の55%に達しました。「ちゃんとやっていない」39%(同3%ポイント減)を16%ポイントも上回ったのです(「2020年3月第4週調査」参照)。
「よくやっている」は2018年12月第1週以来、50%を割っていました。肯定的評価が50%を超えると同時に、否定的な評価が30%台に落ちたのは、2018年11月第5週以来、1年4か月ぶりです。
政権の評価が急上昇したのは、ひとえに新型コロナウイルスによる肺炎のおかげでした。「よくやっている」と答えた人に理由を聞くと「新型肺炎への対応」が56%。2位が「最善を尽くしている」の6%。大差のトップです。
感染者急増に歯止め
――保守は「新型肺炎を蔓延させた政権の無能」を材料に総選挙で勝つつもりだったのに……。
鈴置:その通りです。デイリー新潮に「韓国で新型肺炎の患者が急増 保守派は『文在寅政権の無能、無策』と総攻撃」を載せた2月21日の段階ではそうでした。
2月下旬から韓国の感染者・死者数は爆発的に増え、中国に次ぐ世界2位に躍り出た。保守は、湖北省を除く中国からの入国者に門を開き続けていたことが感染拡大の原因だ、と政府を攻撃しました。
中国からの入国を全面的に禁じた香港、マカオ、台湾、シンガポールでの感染者・死者数が少なかったことから、保守の批判は相当に説得力を持ちました。
保守系紙は「習近平主席の訪韓予定に配慮して入国を全面禁止せず、韓国人の健康をないがしろにした」と繰り返し主張。
文在寅大統領の弾劾運動も盛り上がりました。このムードに乗って総選挙では保守有利、との見方が増えました(「新型肺炎で『文在寅』弾劾 “習近平に忖度するな、中国からの入国を全面禁止せよ”と保守」参照)。
ところが、3月に入るとイタリアをはじめとする欧米諸国で感染が広がり、韓国の感染者・死者の順位は一気に落ちました。
韓国の新規感染者数も2月21日以降、1日に数百人規模だったのが3月15日に2桁になるなど、やや落ち着きました。ちなみに、3月末現在は100人前後を行ったり来たりしています。
肺炎の急拡大に歯止めがかかるに連れ「政権はよくやっている」との評価も2月第4週の42%を底に浮上。先ほど示したように3月第4週では55%を付けたのです。
「よくやっている」と評価する人の挙げる理由「新型肺炎への対応」も2月第4週の30%以降、37、44、54、56%と尻上りになっています。
韓国人が世界一優秀
――歯止めがかかっても、「失政の実績」が消えるわけでもないでしょうに。
鈴置:「失政」イメージを打ち消すことに文在寅政権が成功したからです。「韓国が世界で一番うまく新型肺炎に対処した国だ」というプロパガンダが効きました。
常に劣等感にさいなまれてきた韓国人は「世界一優秀な韓民族」との“勲章”を与えられると、すぐに飛びついてしまうのです。
ことに今回の新型肺炎では、一時「中国に次ぐ感染者数の多さ」にしょげかえっていましたから、保守メディアも含め「韓国はすごいぞ!」との大合唱が起こりました。
この政権が誇ったのが「検査件数が多い」ことです。青瓦台(大統領府)はホームページに「検査件数」と「確診率」を載せ毎日、更新しています。
韓国のデータだけではなく、日本とイタリアも載せ3カ国で比べる形式を採っています。日本を載せたのは「韓国は日本の10倍以上も検査している」と言いたいからでしょう。
「確診率」とは日本では聞きなれない数字ですが、韓国では検査した結果、陽性反応が出た人を「確診者」と呼んでいまして、それを検査件数で割った数字です。これまた日本やイタリアよりも韓国が低い――防疫に成功している、と言いたいと思われます。
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