BS無料放送「Dlife」が終了 辛口コラムニストが愛した理由

エンタメ

  • ブックマーク

オリジナル作がタダで見られた

 もうひとつ、ディズニーにとってビジネスとして失敗だったのは、放送開始からこの3月末までの丸8年の間に、番組の編成がけっこう揺れて、Dlifeというチャンネルのイメージがなかなか固まらなかったことでしょう。

 コンテンツのメインになるドラマで言えば、開局した当初は「アリー my Love」に「デスパレートな妻たち」「フレンズ」と、ちょっと懐かしいレベルの“NHKのお古”が多かったのに、しばらくしたら「奥さまは魔女」やら「チャーリーズ・エンジェル」やら「ジェシカおばさんの事件簿」やら、昭和臭キツめな物件(ワタシはそれでDlifeにハマりました)が混じるようになり、今度はそれも消滅。最近じゃ、有料の専門チャンネルから降りてきた後、まださほど時間の経ってない新しめの作品がメインになってる。

 まぁ、でもワタシの場合、そういう編成の変遷まで含めて楽しんできて、最近ようやく、よくも悪くもDlifeのスタイルが固まってきたのかなぁと感じていたところだったので、消滅は本当に残念無念です。

 まだ名前を出していないドラマで言えば、「キャッスル」「殺人を無罪にする方法」「Major Crimes」「メンタリスト」「ブラックリスト」「バーン・ノーティス」「ダメージ」「スコーピオン」あたりの、ここ何年か流れてた作品は本当によく(繰り返し)見たからね。ドラマ以外でも、英国風の「ブリティッシュ・ベイクオフ」(“NHKのど自慢”風に言えば、“BBCパン焼き自慢”)なんて、最近、知り合いに薦めまくってたくらい。

 Dlife愛好家には、ニッポンの駄目さ・悲しさが、より具体的・立体的に感じ取れてしまうというメリットとデメリットもあった。デメリットから言うなら、たとえばTBSの「グッド・ワイフ」やフジの「SUIT/スーツ」に主演した常盤貴子や織田裕二が可哀そうに思えてならず、ドラマに集中できなかったのは、先にDlifeでオリジナルの米国版を見ていたせい。後に続いたニッポン版焼き直しの安さ爆発っぷりが際立ったもんでね。

 今、国内のドラマギョーカイで新型ウイルスより猖獗(しょうけつ)を極めてる医療モノにしたって、先に流行って定番化したのは米国。リアルなメディカル群像ドラマの原型たる「ER」から、韓国ドラマをハリウッドでリメイクした「グッド・ドクター」まで、Dlifeでタダで見られるとしたらアナタ、国産医者モノの薄っぺらさが耐えられなくなるはずですよ。

 一方、メリットを挙げると、たとえばDlifeの料理番組を見ていれば、いわゆる先進国の中でニッポンだけが経済成長していないことが実感・痛感できてしまうことも、そのひとつ。舶来の料理番組が常に、というより年数が経つにつれてますますゴージャスに感じらるのは、国産のそれがどんどん貧弱に、貧乏臭くなっているからで、それに気づくと、アベノミクスがApenomics(猿の経済)であることがよくわかる。

 昭和50年代ごろにグラハム・カーの「世界の料理ショー」からあふれていた眩しさが、バブルの前後で薄らいだと思っていたら、今またナイジェル・スレイターの「シンプルクッキング」あたりから感じられる。これってニッポンの過去半世紀ほどの経済・社会の栄枯盛衰とシンクロしてるでしょ?

 こんな具合に、いわば国外への扉を国内のTVに開いていてくれていたDlifeが、令和元年度とともに終わり、4月以降も同じような体験を簡単にできるチャンネルがTVには見つからない。ワタシの耳に聞こえているガッシャーンという音は、ドラえもんのカブりものを身に着たミッキーマウスが、どこでもドアを閉める音。盲信しているディズニーにさえ見切りをつけられたニッポンは、再び極東の果ての閉じた国へと戻りつつあるのかもしれません。

林操(はやし・みさお)
コラムニスト。1999~2009年に「新潮45」で、2000年から「週刊新潮」で、テレビ評「見ずにすませるワイドショー」を連載。テレビの凋落や芸能界の実態についての認知度上昇により使命は果たしたとしてセミリタイア中。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年3月31日掲載

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。