新型コロナで異常感染「イタリア」の特殊事情

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敬老精神も裏目に

 ヨーロッパのなかでも、とりわけ家族の絆が強いことも裏目に出た。

「週末には家族が集まって昼食会を開くのが一般的です。どこの家でも、冬場でしたから換気が悪い狭い空間で、大勢が賑やかに食事していました。とにかく日本とくらべると、家族が一緒にすごす時間が圧倒的に長いのです」

 感染が広がる条件が揃いすぎていたのだが、イタリアでも若い人はほとんどが軽症だ。犠牲者の平均年齢は80・5歳で、しかもその大半は、二つか三つの持病を抱えていたという。要は、ウイルスは、イタリアでも弱った高齢者を狙い撃ちしたのだが、その点でも、イタリア人の生活習慣はウイルスに有利だった。

「お年寄りと同居している家庭が多く、そうでなくても、お年寄りのもとを頻繁に訪れるのが普通です。また、お年寄りたちも毎日バール(喫茶店)に出かけて常連の人たちと何時間も会話を交わします」

 イタリア人の長寿の秘訣とされる、高齢者との、また高齢者同士の活発な交流が、悲劇に繋がった。ちなみに、感染の中心地ロンバルディア州は、65歳以上の人口がイタリア最多で、227万人におよぶ。

 また、南部プーリア州でもこんな例が。

「新型コロナウイルスに感染して亡くなった高齢者の葬儀で、参列者がみな遺体にキスした結果、集団感染したのです」

 さて、感染が広がると、もはや収拾がつかなかった。先のライターの話。

「イタリアでは財政健全化のために、過去5年間で760の医療機関が閉鎖され、医師も看護師もそれぞれ5万人以上不足しているのは、報じられた通り。そんな状況下で、軽症の患者までどんどんPCR検査をしたので、重症者が入る病床がなくなってしまった。検査を通じて院内感染も起き、いまでは高齢者が、感染からわずか8日ほどで次々に亡くなっています」

 早く収まってほしいが、聞けば聞くほど日本の状況とは違う。我々はいままで通り正しく恐れているかぎり、大過はなさそうだ。

週刊新潮 2020年4月2日号掲載

特集「『アベショック』の謎、謎、謎」より

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