遠藤健(SOMPOケア代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
施設内の取り組み
佐藤 こうした機器開発の一方で、高齢者の自立への取り組みもされていると聞きました。高齢者にちょっとした仕事を与えている施設があるそうですね。
遠藤 東京・大田区の「ラヴィーレ多摩川」です。ここでは入居者に、簡単なアクセサリーを作ってもらっています。常時10名~15名くらいが参加していて、1回につき施設内で使える500円相当のポイントを支給しています。
佐藤 人間には役割が必要ですから、仕事があるというのは、精神的にもいい。
遠藤 だんだん人気が出てきまして、みなさん、非常に楽しいとおっしゃいますね。ちょっと技術がいる作業なので、やり甲斐もある。
佐藤 手を動かすこと自体が重要ですからね。
遠藤 一方、東京・足立区の「そんぽの家S王子神谷」というサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)では、東京藝術大学との産学連携プロジェクトが進行中です。2人のアーティストが住み込んで、入居者とアートを通じた交流をしています。1人は絵が専門の中国人で、一緒に絵を描くのですが、壁に描いたり、入り口の柱を真っ白に塗ってそこに描いたりと、発想が面白いんですね。これに入居者がずいぶん参加しています。
佐藤 子供のころ、禁止されていた落書きをしている感じですね。
遠藤 もう1人は日本人の舞台演出家です。彼はギターが弾けて歌を作るんですが、いま近所の小学生4、5人がやってきては、昨年流行った「パプリカ」みたいに、みんなで歌ったり踊ったりしています。
佐藤 ペットはどうですか。うちには猫が7匹いるんです。私の母もそうだったのですが、人生が終盤に差し掛かったとき、猫はすごく重要なパートナーになります。
遠藤 京都のサ高住で、一部、ペットを飼えるフロアを作っているところはあります。ホームで飼っているところも、けっこうありますよ。施設は24時間365日必ず職員がいますから飼いやすい。どこも犬や猫などに名前を付けて、入居者たちが可愛がっています。
佐藤 動物を通じたケアは、外国でも実験されて一定の効果が見込まれていますからね。
遠藤 そうですね。
佐藤 こうしてみると、介護スタッフの教育に先端技術による機器の開発、入居者に対するさまざまな自立支援の試みなど、介護業界での先駆的な試みがたくさんありますね。
遠藤 これから十数年で、介護が必要な高齢者は、900万人になると言われています。当社をご利用いただいている方は8万人、うち施設入居者は2万4千人です。厚労省は「地域包括ケアシステム」という方針を打ち出し、在宅も含めて地域全体で支えていこうとしていますが、方向性は正しいとしても、なかなか地域の高齢者すべてを支えるだけの力のある自治体はない。
佐藤 そうですね。
遠藤 施設から見ると、まず公的な特養老人ホームがありますが、これは社会保障費をかなり使いますし、要介護3以上でないと入れない。そこから民間の役割を考えていくと、その価格帯よりは上だけれども、要支援やまだ元気な人も含めて、施設もあればデイサービスもあるという形で展開していくことが必要になってきます。それらの組み合わせをうまく作っていかなければなりません。
佐藤 その中で、SOMPOケアは、介護全体のモデル作りをされているように見えますね。
遠藤 私たちが頑張っても、その要介護900万人時代のごく一部にしか対応できません。ですから、せめて私たちが持つ介護現場のソリューションを社外にも提供できるようになっていきたいですね。
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