追悼・志村けんさん 最後まで貫いた“お笑いのプロフェッショナル”という矜持

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21年ぶりの映画出演は

 なので、映画やドラマへの誘いもほとんど断っていたものの、敬愛する故・高倉健さん主演の「鉄道員(ぽっぽや)」(1999年)で映画に初出演する。高倉さんもまた最後まで正統派俳優であろうとした人だ。

「鉄道員」で志村さんが演じたのは酒グセの悪い炭鉱夫。高倉さんから「ぜひ演じてほしい」と直接電話があったので、役も聞かずに出演を決めた。

 その演技はというと、評価が高く、見る側に強い印象を残した。ちあきなおみ(72)ら名歌手にも演技のうまい人が多い。優れた表現者は演技も難なくこなしてしまうのだろう。

 古稀を迎えた今年、志村さんは久しぶりに演技に取り組もうとしていた。それだけに本人も関係者も無念でならないはずだ。

 4月からは12月公開の映画「キネマの神様」の撮影に参加する予定だった。「鉄道員」以来、21年ぶり2作目。菅田将暉(27)と共にダブル主演するはずだった。監督は日本を代表する名匠・山田洋次(88)。しかも松竹映画100周年の節目の作品である。どれだけ関係者が志村さんに期待していたかがうかがえる。

「キネマの神様」で志村さんが演じるはずだったのは、映画を愛してやまないが、博打好きのダメ男。きっとハマリ役になっただろう。

 3月30日にスタートしたNHK連続テレビ小説「エール」にも、4月27日放送分から大物作曲家役で出演することが決まっていた。朝ドラを引き受けたのも初めてだった。

 既に数シーン分の撮影が済んでいるものの、放送されるかどうかは未定(3月30日現在)。視聴者は在りし日の志村さんを目にしたいだろうが、一方でその姿を見るのはあまりに悲しい。NHKは難しい判断を迫られそうだ。

 最後まで独身を貫く一方、何人もの女性と浮き名を流した。だが、トラブルとは無縁。相手の女性から恨まれなかった。ひとえに人柄だろう。

「素顔はとてもシャイで、やさしかった。結婚しなかったのは芸に熱心すぎたせいでしょう」(前出・テレ朝元取締役制作局長の皇達也氏)

 3月25日放送のテレビ朝日「あいつ今何してる?」には志村さんとかつての交際相手で元アイドル歌手・大滝裕子さん(57)が登場。2人は志村さんが若手だった約35年前に交際していた。

 志村さんは「真剣に交際していた」と振り返ったものの、大滝さんは「好きな人が出来たから別れたいと言われた」と苦笑い。志村さんは照れながら頭を掻いた。

「バカ殿」も、含羞の色を浮かべながらのトークも、もう見られない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年3月30日掲載

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