「恋愛結婚」はいつから「常識」になったのか 私が選んだ「恋愛もセックスもない結婚」【能町みね子×高橋ユキ 対談】

ライフ

  • ブックマーク

結婚の形について

――能町さんの結婚について「入籍をしていなければ結婚ではない。単なる同居だ」という意見が寄せられることもあるという。

能町 私はまさに、結婚の定義とは何なのかを問い直すテーマの本を書いたわけで、「書類を出さなきゃ結婚ではありません」という考えの人がいれば、「あなたがそう思っているならそれでいいんじゃないですか」としか言いようがないんですけど。でも、それを押し付けないでくれ、とは思いますね。

高橋 確かに。家族像っておおまかにはあるけれど、一人一人の家族像を見ていくとだいぶん違いますよね。

能町 そうなんです。私は「変わった結婚でしょう」みたいな本を出しちゃっていますけど、周りを見ると、変な結婚をしている人はけっこう沢山いて。100キロ以上離れて住んでいて、単身赴任でもなく完全なる別居婚なんだけど毎日LINEをして楽しそうにしている人とか。書類上は結婚しているけど、同じマンションの別の部屋に住んでいるとか。あとは、ずっと一緒にいるから結婚しているのかなと思ったら、書類を出していなくて事実婚ですという人もいますし……。じゃあそういうのは結婚じゃないというんですか、と。

高橋 事実婚も結婚のひとつなんだろうし。

能町 書類を出したら結婚なら、犯罪のための偽装結婚も全部「結婚」になっちゃう。そんな簡単な定義をしたらダメじゃないかと私は思うんですよね。

――このように世の中にはいろんな形の「結婚」がある。近年はアプリでの婚活なども盛んだが、一方でそもそもなぜ結婚するのかわからない、好きでもない人になぜアプリを使って自分を売り込んでまで恋愛しなくてはいけないのか疑問という声も。

高橋 能町さんの『結婚の奴』は、婚活している人とか悩んでいる方が読むとふっきれるところがある気がします。昔はお見合いで結婚が多かったじゃないですか。取材で話を聞く老人もお見合いで結婚したという人がすごく多くて。だから『結婚の奴』を読んで、恋愛を経て結婚しなくちゃいけないって、私たちいつから思うようになったんだろうってすごく感じました。そうじゃなくてもいいんだよなって改めて思ったんです。

能町 お見合いの強制が嫌で、恋愛結婚が主流になったはずなんですけど、今度は逆に恋愛しなくちゃいけないとなっちゃうと大変なことになりますよね。

どこまでさらけ出すのか

――婚活アプリもそうだが、SNSが盛んになった現在、ネット上にプライベートな情報を公表するシーンも多くなった。しかしプライベートな情報を世間に公開することに抵抗を感じる人もいるだろう。プライベートなことや実在の人物について執筆するにあたり、何をどこまで公開するのか、お二人にとっての境界線とは。

能町 お互いそれなりにばらしていますけど、私のほうがひどいばらし方をしていますね(笑)

高橋 能町さん、ばらし方が上手だなあといつも思います。これは相手も怒らないだろうなという。

能町 そうですかね。でも『結婚の奴』に出した、最初におつきあいした人は危ないと思う。全く連絡をとっていないんですけど、もし本人が読んでいたらさすがにばれるだろうなと。名前以外はほとんど事実なんです。

高橋 わたし、どんな人なんだろうとすごく気になって、ネットで調べちゃいました(笑)。

能町 私も本名で調べましたけど、あまり出てこなかったですね(笑)。何しているかも分からないです。ちなみに本の中ではハンドルネームはルカにしたんですけど、本当はもっとひどくて……(実際のハンドルネームを明かす)。

高橋 (大爆笑)よくその人にいこうと思いましたね!

能町 よくいきましたよね、いま考えても。大井町に住んでいた、とかは本当です。

高橋 私もあのへんに住んでいたんで、想像しながら読んでいました。

能町 高橋さんはお子さんがいるということを言っているくらいで、そこまで個人情報は出していないですよね。『つけびの村』では、本当のことは書けなかったという部分はあったんですか?

高橋 そうですね。『つけびの村』に関してはもちろん登場人物は仮名にしましたし、ぼかさなければならないと判断したところは、一人の老人の語りとして章にまとめました。

能町 あれは面白い章でしたね。

――ワイドショーを賑わせている不倫もまさに他人のプライベート。他人ごととわかっているのについつい口をはさみたくなるのは人間の性なのだろうか。

能町 どうしても人には下世話なことへの興味がある。それは間違いないので、不倫のニュースが話題になるのもしょうがないじゃないかと思うんですよね。人間のそういうことに興味を持つのは許容範囲なんじゃないかと、勝手だけど思っちゃいますね。

高橋 ワイドショーがなくならないのは、人には下世話なことへの興味がある証拠だと、私は思っています。

能町 だから芸能人の不倫ニュースについても、私はむしろ、不倫に本気で怒る人のほうがちょっと怖いなと思っていて。そんなに他人の不倫が許せないのかなって(笑)

高橋 杏ちゃんのニュースも、みんな東出くんにめちゃくちゃ怒っていましたよね。

能町 やっぱり自分に投影しちゃうんでしょうね。3人くらい子供がいるような人が、夫がそんなことしていたら許せない、って。

高橋 なるほど、そういうことなんですね。私は、ポリス的な取り締まりみたいなことになっているのかなと思っていました。

能町 わたし自身は正直、不倫のニュースって面白いと思って見ちゃいますね。この人もついに、みたいな。

高橋 ほんとですよね。東出さんが不倫相手の腰あたりを触っている写真がネットで発掘されていましたが、こんなのよく見つけてくるなあと感心しちゃいました(笑)。

 ***

 結婚から始まり、最後には不倫にまで話が及んだ今対談。法的、あるいは誰かの定義にのっとった「人生」に縛られずに、自分自身がいかに納得できる人生を送れるかが大事だと気付かされる。お二人の対談を通じて改めて「結婚」とは何か、人と関わって生きていくということは何かを考えさせられるのではないだろうか。

デイリー新潮編集部

2020年3月29日掲載

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。