4月から小学校で必修化も… 日本の子供に身につけさせるべきは「英語」ではない

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AI時代に必要とされる能力とは

 こうしたことを考えると、小学校での英語教育の必要性すら定かでないのに、就学前の幼児に英会話を学ばせることにどれだけの意味があるのか、疑問に思います。たしかに、小さい頃から英会話スクールに通っていれば、簡単な会話くらいはできるようになるでしょう。でもそれは、小学校で勉強を始めれば、いずれみんなができるようになる。その程度の能力なのです。

 むしろ、最初は他の子にできないことができるため得意な気持ちになるかもしれませんが、高学年になると、基礎学力の高い子にどんどん抜かされていくかもしれない。そういう時、幼い頃から自由に遊ぶ時間を削ってまで英会話スクールに通っていた子は、大きな挫折感を抱きかねません。

 近年、AI(人工知能)が飛躍的に発達し、機械翻訳の精度も数年前とは比較にならないほど上がっています。最近だと明石家さんまさんのCMで知られる翻訳機「ポケトーク」などがありますが、今の子どもたちが就職する頃には、日常会話の通訳はほぼ完全にAIが代行してくれるでしょう。その時、英語で日常会話はできても、政治や経済、哲学や科学などの難しいテーマでは何も語れない日本の若者は、どんな仕事に就けばよいのでしょうか。英会話が勉強だと勘違いし、教養を身につけたり国語力を磨いたりせずに英会話にばかり時間を費やしてきた子には、何の強みもなくなってしまいます。

 最近の大学生には、川で魚を獲ったこともなければ、素手で虫を触ったこともない、というような子が多い。また、友達を作るのに苦労する学生も多く、先輩や後輩との関係をうまく築けないという学生もいます。幼児期には、自然との触れ合いの中で不思議を感じたり、遊びに夢中になったり、友達とのかかわりの中で人とのさまざまな距離感を体得したりすることが、最も大切ではないでしょうか。

 なかなか思い通りにならない他人や自然とのかかわりを通して、忍耐力や集中力、衝動や感情表現をコントロールする力、共感性などが培われます。こういった、IQとは異なる能力を「非認知能力」と呼びます。そして、子ども時代に非認知能力が高いほど、大きくなってから学歴や収入が高いことも実証されています。

 たとえば、マシュマロ・テストというのがあります。子どもの目の前にマシュマロが一つ置かれ、実験者が戻るまで待てたらもう一つあげると言われます。そこで、我慢せずに食べてしまうか、我慢して二つもらうかを確かめる実験です。その結果、我慢できた子の方が、十数年後には友達付き合いも学業もうまくいっていることがわかりました。さらに、彼らは誘惑に負けにくく、集中力があり、ストレスがかかる状況でも取り乱さず冷静にふるまう傾向がみられました。成人後も長期的視野に立って物事に取り組むことができ、危険な薬物に手を出すことは少なく、学歴が高く、肥満指数も低かったのです。

 また、千人の子どもを対象に、生まれたときから32年間にわたって追跡調査を行った研究でも、子ども時代の自己コントロール力が高いほど、大人になってから健康度が高く、高収入で、犯罪率が低いことが明らかになっています。

 大学入試改革をめぐる騒動でも明らかになったように、国の教育制度改革の裏には、政治家や官僚、教育ビジネス業界による利権争いの側面もあります。そんなものに翻弄されて、教育の本質を見失わないようにしたいものです。子どもは私たちの未来なのですから。

榎本博明(えのもとひろあき)
心理学者。1955年、東京都生まれ。心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。大阪大学大学院助教授等を経てMP人間科学研究所代表。著書に『その「英語」が子どもをダメにする』『伸びる子供は〇〇がすごい』『ほめると子どもはダメになる』など。

週刊新潮 2020年3月26日号掲載

特別読物 「ついに始まる『小学校英語必修』 幼少期の英会話が招く学力崩壊」より

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