阪神・藤浪晋太郎 「新型コロナ感染」の悲運、“復活の兆し”もあったのに…

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 新型コロナウイルスの影響で、いまだにシーズン開幕の見通しが立たない今年のプロ野球。そんな状態に追い打ちをかけるようなニュースが3月26日に飛び込んできた。阪神・藤浪晋太郎が新型コロナウイルスの検査で「陽性」と診断されたというのだ。プロ野球選手の感染が発表されたのはこれが初めて。これを受けて予定されていた二軍の練習試合は中止となり、寮に住む選手も急きょ移動することになった。

 選手に感染者が出たことで4月24日の開幕を目指していたペナントレースに影響が出るだろうが、何よりも心配されるのが当事者である藤浪自身である。若年層は症状が軽いことが多いとは言われているものの、重症化した例もある。また、当面は経過観察をすることになり、開幕に向けて調整が遅れることは必至だ。

 改めて振り返ってみると、ここ数年、藤浪を取り巻く状況は過酷になる一方だ。

 2016年7月8日の広島戦では序盤3回までに5点を奪われながらも8回まで続投し161球を投じて、金本知憲監督(当時)による“懲罰続投”ではないかと大きな議論を呼んだ。この年には、プロ入り以来続いていた二桁勝利が途絶え、7勝に終わっている。翌年には制球難がさらに悪化し、わずか3勝。18年には5勝と少し持ち直したが、防御率は悪化の一途をたどり、昨年は一軍での登板わずか1試合でプロ入り初の0勝となった。

 好調時は持ち上げても、成績が下降すると一気に非難される……それが阪神という球団の“宿命”である。過去3年間、藤浪は常にバッシングに晒され、他球団にトレードすべきという声も少なくなかった。

 もちろん、この期間、藤浪自身も手を打っていなかったわけではない。シーズンオフには動作解析を行ってフォームの改善に取り組み、またトレーニングで体重増加も図っている。昨年の秋季キャンプと今年のキャンプでは、通算219勝をあげた元中日・山本昌臨時コーチに師事し、“抜けるボール”を減らすことをテーマに取り組んでいた。

 オープン戦では2試合に投げて1勝1敗、防御率4.50だったが、3月11日のヤクルト戦では4回を投げて被安打2、5奪三振、1四球で無失点と見事なピッチングを見せている。また翌週18日のオリックス二軍との練習試合では、リリーフで3回を投げて、5安打を浴びながら1失点と粘りの投球を見せて、与えた四球も1つと先発ローテーション入りへのアピールを続けていた。

 藤浪の持ち味は何といってもその長いリーチから投げ込むストレートと、打者の手元で鋭く横滑りするカットボールである。今年も2月中旬に早くも150キロ台中盤のスピードをマークした。

 これに対して、カブス・ダルビッシュ有がツイッターで驚きの声をあげていた。また、不器用なイメージが定着しているが、高校時代からストレートが走らない時は、変化球主体で抑える上手さも度々見せている。平成元年以降、高校卒の投手が1年目に二桁勝利をマークしたのは西武・松坂大輔、ヤンキース・田中将大(当時楽天)と藤浪の三人だけであるが、投手としての“将来性”で言えば藤浪がナンバーワンではないだろうか。

 そんな藤浪に復活の兆しが見えてきていただけに、今回の新型コロナウイルスの感染に本人も相当なショックを受けていることは想像に難くない。だが、味覚がおかしいという異常に気付いた段階でトレーナーに申し出たという点は、自身の体に関する意識の高さの表れでもある。仮に、そのまま練習を続けていれば、本人にもプロ野球界全体にも与えるインパクトはこの程度ではなかっただろう。そういう意味でも、藤浪はプロ野球界を救ったともいえる。

 今回の感染で調整が遅れることは間違いないが、改めて自分と向き合う時間ができたことも確かである。この苦難に負けることなく、甲子園のマウンドで打者の手が出ないようなボールを投げ込む姿を再び見せてくれることを期待したい。

 “悲運”に負けるな! 藤浪!

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年3月29日掲載

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