【コロナ禍】10分に1人が死亡しているイラン 「反米」と「イスラム」が招いた惨状
囚人8万5000人を釈放
さらに最高指導者のアヤトラ・アリ・ハメネイ師(80)は3月22日にテレビで演説を行った。
ニューズウィーク日本版(電子版)は3月23日、「イラン、新型コロナウイルス巡る米国の支援を拒否 ハメネイ師『われわれの第一の敵は米国』」の記事を掲載した。
この記事によると、ハメネイ師は支援申し出を「アメリカでも資源が不足しているのに奇妙な話」と疑問を投げかけ、「アメリカはこのウイルスを作ったとの疑惑もかけられている」と指摘したという。
中国でも外務省の報道官が「米軍が武漢に持ち込んだ化学兵器の可能性がある」とツイッターに投稿して話題となったが、全く同じ論法なのは興味深い。
「アメリカの支援を受けて感染者や死者の数が減少すれば、これも現政権の問題点を浮き彫りにし、反政府運動の激化を招きかねません。政権はどんな理屈をつけても、アメリカの支援を拒否する必要があるのです。一方のアメリカからすると、自国の感染拡大は大問題だとはいえ、敵視している中国とイランがウイルス問題で大きな被害を受けているわけです。内心、ほくそ笑んでいると思います」(同・佐々木氏)
そしてイランは3月を迎えた。独自の太陰暦を採用しているイランでは、3月は年末年始にあたる。20日ごろには大晦日を祝う「チャハールシャンベスーリー」が行われ、翌日の元日は「ノウルーズ」と呼ばれる祭日になる。
「このノウルーズ前後は、新春の訪れを祝う儀礼が盛んに行われ、人々は街にどっと繰り出します。日本も12月や1月は年末年始の商戦が活発となり、親類や知人などとの会食が盛んになるのと似ています。日本は現在、自粛ムードになっていますが、私の把握している限りでは、イランでは外出を控える動きはあまりないようです。マスクもしませんし、キスやハグも普段通りに行っていると聞いています」(同・佐々木氏)
実際、2月下旬から3月にかけて、ハメネイ師の側近など政府高官が、新型コロナによって死亡している。2月21日の総選挙が終わって、間をおかずに年末年始に突入したことが、少なからぬ影響を与えているようだ。
「イスラム教で絶対神であるアラーを讃える言葉は『インシャラー』です。日本語では『神の御心のままに』と訳されます。ウイルスに感染するのも『神の御心のまま』、感染しないのも『御心のまま』という意識は、彼らの心のどこかにあっても、おかしくありません」(同・佐々木氏)
とはいえ、これだけ感染が爆発的な勢いになっていると、自衛を考えるイランの人々も少なくないようだ。医療品は極めて不足している。それにつけこむようにしてデマが流れているようだ。
「デマ自体は、様々な国でも流布しています。ニンニクがウイルスをやっつけるという類の話です。イランの場合は、アルコールでした。お酒が新型コロナウイルスに効くというデマが流れたのです。もちろんイスラム国のイランで酒類の飲用は禁止されていますが、実は密輸したワインなどをこっそり飲む文化もあります。ところが強力な経済封鎖の影響で、アルコールの入手は厳しく、そこで粗悪な密造酒が売られていたようです。デマを信じて質の悪い酒を飲んだイラン人が、少なくとも40人が死亡したそうです」(同・佐々木氏)
イラン政府は暴動を強く警戒しているようだ。CNN(日本版・電子版)は3月5日、「受刑者5万4000人、新型コロナ対応で一時釈放 イラン」と報じたが、佐々木氏の取材によると既に8万5000人を釈放しており、更に1万人の追加も検討しているという。
「刑務所における感染拡大を恐れているということもありますが、所内の暴動を防ごうとしているのでしょう。既に暴動が起きた刑務所もあり、鎮圧した際に死者が出ているようです。更に経済活動も徐々に低下しているようなので、失業者や経営者が反体制デモを起こしてもおかしくない状況です」
日本政府は約25億円の支援を決定。茂木敏充外相(64)は3月20日、ザリフ外相と電話で会談を行い、ザリフ外相は謝意を示した。
日本の支援が、どれだけ役に立つか……。
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