テレビに映る漁業組合の人間模様(中川淳一郎)

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 テレビの情報番組で、漁港からのロケを時々やりますが、画面の中の人間関係を勝手に想像するのが好き。漁協に協力してもらい、その地域の名産であるタイやカニやフグやブリが登場します。刺身にしたり、焼いたり揚げたり、炊き込みご飯にしたりと様々なバリエーションを紹介しますが、ここに欠かせないのが漁協の“婦人部”みたいなところに所属しているであろう中高年女性達です。

 この人達が同じエプロンをして、ロケにやってきた芸能人の周囲に立っているのですが、この中の「ボス」的女性が誰なのかは一瞬で分かります。まず、その他の女性達は全員「取り巻き」風の自信がなさそうな愛想笑いと佇まいを見せています。そして、ここのボスは恐らく「組合長」みたいな男性の妻なのでしょうが、芸能人の隣にいる人です。他の女性は後ろにズラリと並んでいる。

 この光景を見る度に、「このボスからいつも細かいことを命令されて小間使いのように動いてるんだろうな~」と彼女達の人間関係を勝手に想像してしまいます。これって、東京のオシャレカフェのランチタイムでママ友達が集まっていても同じに見えます。

 ソファー4人、椅子4人みたいな8人がけのテーブルに8人のママがいた場合、ソファーの中央で会話をリードしている人がこの中のボスです。その隣の人が副ボスみたいな感じで、ボスにはタメ口で何かを言っている。他のママ達は愛想笑いを浮かべながら大袈裟に首を縦に振って頷き続けている。これ、ボスと副ボス以外は楽しいのか?

 漁港の女ボスの話に戻りますが、ああした取材依頼がテレビ局から来ると、こんな展開になることが予想されます。

「今回、テレビ○○からロケの依頼が来ました。我が漁協としては絶品のブリを出してバッチリ決めたいのですが、誰に料理していただきますかね」

 まずは組合長がこう切り出します。するとすかさず「いやぁ、ここは組合長の奥様でしょ!」「私もそう思います!」となる。組合長はこれを「当然だよな」と思いつつ「う~ん、我が妻にそんな大役を担わせていいのでしょうか」と謙遜を装うも、「賛成多数」で結局は妻・アケミがその大役を担うわけですね。

 かくしてアケミさんとその子分である女性達は組合の“婦人部”の会合で何を振る舞うかの打ち合わせをしたりリハーサルをして当日を迎えるわけです。「そしたら武田さん、あなたがアケミさんの後ろに立ってください」「いえいえ吉田さん、あなたこそ後ろへ」なんてやり取りがあったうえで、本番の立ち位置やら芸能人Aに誰が最初の一品を出すか、といったことが決められていく。

 本番でリーダーたるアケミさんは、常に中央にいて芸能人Aの相手をし続ける。そして最後は「せーの」の掛け声で、「○○漁港にいらっしゃいませ! お待ちしてまーす!」と皆で声を合わせます。

 こうした姿を見るにつけ、集団行動が嫌いな私は「よくこんなことやるよな」と思うとともに、会ったこともない人々の上下関係を想像しては、下っ端女性が家に帰った後、夫にどんな愚痴をこぼすかを想像してニヤついてしまうのです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年3月26日号掲載

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