新型肺炎発の韓国の通貨危機 米国の助けも不発で日本にスワップ要求…23年前のデジャブ
「食い逃げ」されてきた日本
――日本は「ああいいですよ」とスワップに応じるでしょうか?
鈴置:簡単には応じないと思います。これまで、日本は韓国とスワップ協定を結ぶたびに食い逃げされてきました。
欧州金融危機の際、日本の野田佳彦政権は李明博(イ・ミョンバク)政権の求めに応じ、通貨スワップを130億ドルから700億ドル相当に増額しました。2011年10月のことで、期間は1年間です。
ところが、韓国は直ちに掌(てのひら)を返しました。同年12月の日韓首脳会談で突然、「元慰安婦に補償しろ」と言い出した。翌2012年8月には李明博大統領が竹島に上陸しました。
露骨な「スワップ食い逃げ」です。さすがに「アジアとの共生」が好きな民主党政権も、韓国とのスワップは延長しませんでした。
「食い逃げ」作戦は次の政権も同様でした。朴槿恵(パク・クネ)政権は日本にスワップを結ぶよう求めました。2国間の日韓スワップが2013年7月にすべて終了したので、保険が欲しくなったのです。
2016年8月27日に日韓財務対話の場で、両国はスワップ再開に向け話し合うことで合意しました。すると、韓国は直ちに慰安婦合意を反故にしました。
2015年12月28日に結んだこの合意で、韓国は「日本大使館前の慰安婦像の撤去に努力する」と約束していました。
ところが外交部の林聖男(イム・ソンナム)第一次官はスワップ交渉再開が決まった10日後の2016年9月6日、韓国の国会で「政府も国民世論を把握しながら動くため、今の段階では政府が前に出てこの問題を推進する考えはない」と答弁したのです。
さらには2016年12月、釜山の日本総領事館前に慰安婦像が設置されたのですが、韓国政府はこれも放置。何度もだまされた日本はついに怒り、2017年1月6日にスワップ協定の交渉中断を含む制裁に踏み切ったのです。
「日本人は反省が足りない」
――「世界全体が大変な時だ。恩讐にとらわれず、スワップを付けろ」と言い出す人が出そうです。
鈴置:出るでしょうね。自民党にも「日本は韓国には悪いことをした」「日本人は反省が足りない」が口癖の領袖がいますから。それに永田町にも霞が関にも「日韓スワップは日本のためになる」と勘違いしている人がけっこう多いのです。
2011年10月のスワップ――前述の「新宿会計士の政治経済評論」は「野田スワップ」と呼んでいますが――当時も、民主党政権や財務省は「韓国を助けないと、ウォン安になって日本の競争力が毀損される」と説明していました
一見、それらしいけれど完全に誤った主張です。韓国は日本のスワップがあるからこそ、逆にウォン安を維持できたのです。
韓国政府がウォン安に誘導しても、投機筋がそれに付け込んでのウォン売りは仕掛けにくい。いざとなれば、韓国は日本からドルを借りてウォン買いの反撃に出ると予想されるからです。
日韓スワップを背景に、韓国は2011年10月以降、1円=13-15ウォン前後のウォン安・円高を1年間以上も続けました。これでは日本企業がどんなに頑張っても勝てません。
自動車部品の日韓貿易が日本の出超から入超に転じたのも、これが契機となりました。野田スワップが日本の産業を破壊したのです。
野田元首相はじめ、当時の民主党政権幹部の人々はそれを知ってか知らずしてか、いまだに国会の赤絨毯の上をのほほんと歩いているのです。
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