ウイルス禍が産んだアイドル「岡田晴恵教授」(中川淳一郎)

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 新型コロナウイルス報道でもっとも有名になったのは、白鴎大学の感染症の専門家・岡田晴恵特任教授でしょう。この1カ月ほど、平日はテレビで見ない日がないほどの八面六臂の活躍ぶりで、朝にテレビ朝日で見たと思えば午後はTBSに登場している。私など「この手のものは1回専門家として出演したら5~10万円だな。パネルづくりの事前打ち合わせで拘束されたらその分も請求できるな。これが1カ月続いたら、ゴクリ(唾を飲み込む音)〇万円は稼いでるんじゃねーの!」とゲスの勘繰りをしてしまいます。

 今、岡田さんが引っ張りだこになるのも分かるんです。何しろズバリと答えを言ってくれる。「重点地域を決めて各自治体主導で検査・治療をすべきです」といった感じで。

 初めのうちは、2003年のSARS対策に当たった感染症専門家の初老男性がテレビに出ていたのですが、この人が喋ると他の出演者がイライラし始めるんですよ。

「ならば、感染しないためには、ズバリ我々は何をすればいいのですか!」

 と迫ったところで、

「ンまぁ~、人によってそれは異なるわけで、その人が置かれた環境により対策は違うわけであり、状況の推移を見守り、適切に対処していくべきです」

 常にこんな調子で、結論を言わないんですよ。もちろん、人の命にかかわることだから、断定をするのは乱暴ですし、状況が分からないにもかかわらず提言をすることの危険性はあります。この方は長年研究してきたからこそ慎重に発言するし、感染症対策が一筋縄ではいかないからこそのこの話法です。そこは理解します。

 しかし、テレビというものは「じゃあどうすればいいの! バシッと一言でお願いします!」と、一番に断定を求められます。

 一方、岡田さんは慎重に喋りながらも、「という場合もある」「〇〇の方がいいですよね」と「半断定」「選択肢提示」的な話し方をしてくれる。極端な断定を求められたら「だから」や「ですから」と遮り、「もぅ、これだから素人はダメなのよ。答えを早く求めすぎるし、さっきそのことは説明したじゃないの」のような苛立ちも伝わってくる。だからこそテレビ各局からオファーが殺到するのでしょう。そして、テレビに多く出ていることについては「大学が春休みだから出られてるんですよ(私、本業あるんですからね)」と呆れたように言う。

 そして、岡田さんウオッチャーからすると、彼女がどんどん業界人風になっていく様が気になって仕方がない。業界人風というか「テレビ慣れしてきた」とでもいうのか、朝と昼の番組でメガネが変わっていたり、突然髪の毛が赤っぽくなったり、服装がオシャレになったりするわけです。

 新たなテレビタレントの成長を日々見ているような気持にさせる岡田さん。「テレビ番組出演本数ランキング」ってあるじゃないですか。2019年は帯番組を持つTOKIO国分太一の604本が最高でしたが、このままコロナが終息しなかったら岡田さんも「500本」とかになるかもしれません。社会の安寧のためには、そうならないことを願っています。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年3月12日号掲載

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