米国大統領選を10倍楽しむための基礎知識 候補者たちの名前からルーツを読み解く(八幡和郎)

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 アメリカは移民の国である。だいたいのアメリカ人は自分の先祖がどこに国から移民してきたのか知っている。

 日本では政治家が外国にルーツを持つことを語ると、なんとなくヘイトのように受け取る人がいるが、ポリティカルコレクトネスの本場であるアメリカやヨーロッパではそんなことはありえず、系図の専門家などが教会の記録なども調べて、父祖だけでなく細かく血筋を調べたり、誰と誰が親戚だということを見つけたりする。

 たとえば、オバマ前大統領の場合でいうと、父はケニアの少数民族でビクトリア湖周辺に住むルオ族だが、母親のアン・ダナムの父祖は17~18世紀にイングランドから渡ってきたもので、スコットランド、アイルランド、ウェールズ、フランス、ドイツ、さらに一説によればアメリカ先住民のチェロキー族を祖先に持つという。そして、チェイニー元副大統領やジョンソン元大統領、トルーマン元大統領とも親戚らしい。

 アメリカの黒人の多くは、奴隷所有者の名前を継承したり、奴隷所有者の男性と女性奴隷の子孫が多いのでアングロサクソン系の姓が多く、姓もアフリカ起源というオバマは特殊だ。

 歴代の大統領を見ても、多いのはイングランド起源だ。ワシントン、リンカーンもそうだが、ブッシュ、クリントン(養父の名で本来はブライスだがいずれもイングランド)、カーター、フォード(生家はキング)、ニクソン、ジョンソン、トルーマンなど名前からしてイングランド起源(アイルランド、スコットランドと区別できない人もいるが)の人が多数派だ。

 例外はというと、セオドアとフランクリン・デラノの二人の大統領を出したルーズベルト家は、1649年にクラウス・M・ローゼンベルツがオランダのハーレムから当時はニューアムステルダムといったニューヨークに移住した名門である。2代目のニコラスが英語で読みやすいようにルーズベルトと改めた。

 フランクリン・デラノ・ルーズベルトの母親であるサラ・デラノは、フランス系(ユグノー)である。

 ドイツ系は、フーバー、アイゼンハワーとトランプだ。アイゼンハワーは、ペンシルベニア・ダッチといわれる17~18世紀にペンシルベニアに多く移住したドイツ人の集団に属し、19世紀に中西部に大挙、やってきたドイツ系移民とは違う。ザールブリュッケン郡からスイスを経てアメリカに来たらしいが、父親はスウェーデン系ユダヤ人と称していたこともあるという。なにかの都合で父方でなく母方などのルーツに改名したりする人もいるようだ。

 余談だが、イギリスのジョンソン首相はオスマン・トルコの高官の家系だが、祖父母方の姓に改名しているし、イギリスの女王殿下の夫君はギリシャ王家出身だが、イギリスに帰化するときにドイツ系の母方の姓であるマウントバッテンを名乗った。

 ケネディはその祖父が、アイルランドからボストンに移住してきた。これまでカトリックの大統領は、結局のところケネディしかいない。レーガンもアイルランド系だが、スコットランド系の母親に従ってプロテスタントになっている。ペンス副大統領は、アイルランド系のカトリックの家庭に生まれたが、現在は「どこの教会にも所属しない福音派」だそうだ。

 ドナルド・トランプ現大統領は、祖父フレデリック・トランプがドイツ移民で、もともとはフリードリヒ・トルンプ(Friedrich Trump)で、ラインラント=プファルツ州バート・デュルクハイム郡の出身だ。バイエルン王国領だったらしい。

 アメリカの白人でも、イングランド系はクリントンのように背が高く手足が長く、中西部に多いドイツ系はがっちりした体形の人が多いが、トランプもドイツ的な風貌だ。

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