価格戦争「サウジvs.ロシア」本当の敵は「米シェール」という「仕組み」と「背景」
3月8日(日)の電子取引で、米国の指標原油であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)原油は一時30ドルを付けた。前日比4.62ドル下げた3月6日(金)の終値41.28ドルから、さらに10ドル以上の強烈な値下がりである。
サウジアラビア(サウジ)が増産を目指して4月積みの原油価格を数ドル引き下げたことを「価格戦争」の始まりと見るトレーダーたちが多かったのだ。
1986年の「逆オイルショック」以降、原油価格は市場価格を反映する仕組みになっている。価格は市場が決めている、と言われる所以である。
その仕組みを、代表的なサウジの「アラブ・ライト(AL)原油」を例にとって説明すると、次のようになる(詳しくは拙著『原油暴落の謎を解く』文春新書、2016年6月参照)。
売主である「サウジアラムコ」(アラムコ)は、仕向け地ごとに異なる、市場価格を反映した基準価格を定め、それに「+/-α(αをプレミアム/ディスカウント)」することで毎月の販売価格を設定している。
「アラムコ」は市場動向等を勘案しながら、毎月「α」を調整している。
通常、「α」の変動は何セント~何十セント単位で、決して大きなものではない。
ちなみにアジア向けは、「業界紙『Platts』が公示しているオマーン原油とドバイ原油の平均価格の、船積み月平均価格」を「基準価格」としている。
同じく欧州向け(北西欧州向けと地中海向けとがある)は、「ICE(InterContinental Exchange=ロンドンの原油先物取引市場=)に上場しているブレント原油の船積み月平均価格」を、米国向けは「業界誌『Argus』が公示している複数のメキシコ湾産中重質原油からなるIndexの船積み月平均価格」(ASCI=Argus Sour Crude Index)を採用している。
それぞれの「基準価格」は毎日変動するが、船積み月の平均価格を採用することで「市場価格に連動している」ことになる。
こうした仕組みに沿って、サウジは3月7日(土)、4月船積みのAL原油の「α」を次のとおり大幅に引き下げた。
仕向け地により基準価格として採用している原油が異なるので、それぞれの最終仕上がり価格がいくらになるかは分かりにくいが、はっきりしているのは、4月価格は3月価格より6~8ドル安い、ということだ。
たとえば、アジア向けの基準価格であるオマーン原油とドバイ原油の平均価格が、3月も4月も同じ50ドルだったとすると、日本向けの3月玉が52.90ドルだったが、4月は46.50ドルに下がるというわけだ。もし基準価格そのものが5ドル下がると、最終仕上がり価格は11ドルも下がることになる。
仕組みは完全に同一ではないが、他産油国も同じような市場連動価格を採用しているため、同じように大幅「α」の引き下げを行わないと、サウジ原油との相対比較で非常に高いものになってしまう。したがって、各国とも同様の「α」の大幅引き下げを行うのではないか、すなわち「価格戦争」の始まりだ、という訳である。
「価格戦争」となるかどうかは今後の展開しだいだが、先週のサウジとロシアとの協議が不調に終わるまでの経緯を考えると、一部に期待されているサウジとロシアによる「協議再開」の可能性は低いのではないだろうか。
ロシアが最後までサウジの呼びかけに応えなかった理由・背景等については、本欄『減産合意「失敗」で油価「下落』OPEC「ロシア」強硬反対の理由』(2020年3月9日)に記した卑見を参照していただきたい。
新たな「協調減産」が当分のあいだ期待できないとすると、各産油国は2014年11月のときと同じく「お気に召すまま」生産状態に入る。
だが、需要そのものが前年比増加し続けていた2014年当時と異なり、現在は新型コロナウイルス蔓延の影響で、世界景気が不調に陥ると見られている。その結果、石油需要の伸びも減速し、一部には「リーマンショック」に端を発した金融危機以来の、石油需要が前年比マイナスとなる、と予測をするところすら出てきている。
このような緩んだ需給バランスの中で、各国が市場シェア確保・拡大を目指して販売価格を引下げるとなれば、「価格戦争」となる可能性は非常に高いというべきだろう。
「逆オイルショック」のときは
では、サウジはなぜ「OPECプラス」としての協調減産が崩壊した直後に「価格戦争」を仕掛けたのだろうか?
筆者の妄想憶測は、エネルギー大臣がテクノクラートから王族に代わったため、冷静な現状分析と冷徹な長期戦略眼を失い、とにもかくにも「メンツ」をかけた戦いに出た、というものである。
もちろん、最終意思決定者が衝動的であることで知られるムハンマド・ビン・サルマーン(MBS)皇太子だ、という事実も無視できないだろう。
筆者の妄想憶測を少々説明しよう。
1986年の「逆オイルショック」は、優秀なテクノクラートだったザキ・ヤマニ石油大臣(当時)が仕掛けた「ネットバック方式」によるシェア奪回作戦がもたらしたものである。
当時サウジは、「OPEC」(石油輸出国機構)の盟主として、下落し続ける価格を支えるため「スイング・プロデューサー(価格調整)」役を務めていた。「OPEC」各国には合意した生産割当どおりに減産して貰い、市場がそれ以上の減産を必要としている場合は「サウジ」が一手に引き受ける、というものである。
ところが多くの「OPEC」加盟国が合意した生産割当を守らず、能力に近い生産を維持していた。
その結果、1981年には1026万BD(バレル/日)だったサウジの生産量は、1985年第2四半期には260万BDに、1985年年間平均でも360万BDと、1981年のほぼ3分の1になってしまった。サウジの再三の警告にもかかわらず、状況は改善しなかった。
そこで1985年夏、サウジは他の「OPEC」加盟国に市場シェア奪回を宣言し、「ネットバック方式」による販売攻勢に出たのである。
「ネットバック」方式とは、消費地における石油製品の価格を基に逆算して原油価格を設定する方法だ。
石油製品価格から、精製費用、販売経費、輸送コスト、さらには「適切な」利潤も差し引いて、積出港における原油価格を決める方式である。それまでの「一方的通知」による固定された原油価格と比べると、精製業者にとってまさに「勝利の方程式」だった。
そしてこれが、販売価格は市場連動、すなわち価格は市場が決める時代を到来せしめたのである。
もちろん、1980年代初めから本格的に始まった石油先物市場の存在も大きい。
さらに今回と比べると、プロセスにも大きな違いがある。
ヤマニ大臣は「OPEC」各国に警告を与える一方、1985年9月、秘密裏に当時の主要顧客である旧「アラムコ」のパートナーだった「エクソン」(現「エクソンモービル」)など4社と、米国向けに限定して、約90万BDの「ネットバック方式」に基づく販売契約を締結していたのだ。そして、様子を見ながら販路を拡大し、1986年初めには300万BD以上の販路を確保していた。
かくて市場シェアは徐々にサウジの手に移り、気が付いた時には他産油国も市場価格に連動した価格での販売を余儀なくされるようになっていた。
ちなみに、当時はまだシェールオイルの影すらなかった。
「シェール革命」は、1998年に「シェールガス革命」として始まり、それから油価が高騰した2000年代半ば以降、シェールガスと比べると生産コストの高いシェールオイルの生産も経済的に正当化できるようになり、かくて重点はオイルに移っていったのである。
「シェールの強靭性」の正体
では「減産」を合意せず、大暴落を引き起こした2014年11月の時はどうだったか?
当時、やはり有能なテクノクラートで、サウジの石油大臣だったアリ・アル・ナイミは、当該決定に「特段の戦略があったわけではない」と後日述べていることは、前述した拙稿『減産合意「失敗」で油価「下落」OPEC「ロシア」強硬反対の理由』の中でも紹介したとおりだ。
おそらく素直に、生産コストの高い米シェールや深海からの生産を抑え込めると考えたのだろう。
だが、現実はさほど簡単ではなかった。
米シェールに限って言うと、1つにコストダウン、さらに生産効率改善の余地が多々あったのだ。
コストダウンは主に下請け業者との交渉で実現し、生産効率改善は他の事業で経験していること、学んでいることからいくつか具体的な方策を見出している。その代表的なものが「パッドドリリング」という手法だ。詳細は拙著『原油暴落の謎を解く』(P-230~232)に譲るが、掘削リグの稼働日数を増加せしめ、結果として生産量当たりのコストを引き下げる方法である。
さらに、先物市場を利用して「ヘッジ」を上手くやっているシェール業者も多くいた。
だが、今回は事情が違う。
2014年の暴落から数年を経て、シェール事業のコストダウン、生産効率改善もほぼやりつくした。ヘッジはいずれにせよ、1~2年ほど先までの生産をカバーするもので、それ以上のものではない。
そして筆者もその重要度を見落としていたのだが、これまでのシェールオイル増産を支えていたのは、「目先の利益」よりも「将来の利益の可能性」を求めて流れ込んでいた余剰資金だった、という事実だ。
遅れて参加した大手国際石油は別だが、シェール産業の中核をなす中小のシェール業者の多くは、いわゆる外部金融に大きく依存してきている。
それが今大きく変化している。
「目先の利益」がないところには投資・融資をしないという、いわばまっとうな投資に戻っているのだ。
したがって、いわゆる「シェールの強靭性」の正体は、ほぼ出尽くしているといえる。
すなわち、低油価になれば、増産はおろか生産量維持ですら困難な環境となっているのだ。
ABS王子への「2つの懸念」
ロシアはそこを突いている。「経済原則」を働かせ、シェールの増産傾向を止めようとしている。それが「追加大幅減産」に合意しなかった理由だ。
議論の詳細は知りようもないが、3月6日(金)には相当長い時間をかけて協議をしている。
筆者は以前、サウジのエネルギー大臣アブドルアジーズ・ビン・サルマーン(ABS)王子が王族であるという属性が、外国の石油大臣との交渉時に支障をきたすのではないか、との懸念を示したことがあった。
本欄『「OPEC総会」「プラス」で決まるのは「減産維持」か「減産増」か』(2019年12月4日)の中で、初めて大臣として「OPEC総会」および「OPECプラス閣僚級会合」に臨むにあたり、2つの懸念があると書いた。
1つは、大臣の耳に「正しい市場分析情報」がもたらされているだろうか、という点である。
もう1つは、少々長いが引用しておこう。
〈もう1つの懸念は、ファーリハ前エネルギー大臣はテクノクラートだったが、ABS王子はサルマーン国王のご令息である、という事実がもたらすものである。
テクノクラートは、生き延びるために多方面の才能を開花する必要がある。その1つが説得術である。意見の異なる相手を、どうやって自らの意見に同調させるか、これには高度な「技術」が要求される。
ファーリハ前大臣は、記者会見での応対ぶりを見ていても、説得力のある話しぶりだった。
一方、王族の中でも最高位の国王のご令息ともなれば、面と向かってABS王子に「異論」を唱えるサウジ国民は1人もいないであろう。だからABS王子には「説得術」は要求されていない。
ところが、他国の石油大臣は「サウジ国民」ではない。自国の国益のためには、ABS王子に異論を唱えるのは、むしろ義務なのだ。
したがって、「OPEC総会」あるいは「OPECプラス」の会合でも、舞台裏での交渉時にはサウジの方針に異論を唱える石油大臣が出てきてもおかしくない。いや、必ず出てくるだろう。この時、ABS王子はどう対応するのか。
Raval記者は、ABS王子を「熟練の石油外交官(seasoned oil diplomat)」と評している。
だが、ABS王子はこれまで、本当の意味でトップになったことはない。したがって「熟練」の度合いは今回、ほぼ初めて試されることになるのではないか。
この2つの懸念が、不幸にして的中してしまうと何が起こるか?
2014年11月末の「OPEC総会」と、その後の油価急落という悪夢の再来である〉
歴史の証人になるか
ここまで書いたところで、『FT』が「Oil crash : Why Saudi Arabia has started a global price war」なる記事を掲載しているのを発見した(東京時間2020年3月9日午後13時半ごろの掲載)。
読んでみると、筆者の見方に合致するところも、まったく違うところもある。
この記事の要点を紹介することも読者のお役に立つだろうと思い、以下に記すこととしたい。
その前に1点だけ付記しておきたい。
それは、ABS王子の背後にはMBS皇太子がいる、という事実である。
サウジが仕掛けた今回の「価格戦争」の最大の「敵」は、実は米シェール産業である。
サウジは、『FT』も紹介しているように、「協調減産」を崩壊せしめたロシアに鉄槌を加えたいと考えたのかもしれないが、低油価で打撃を受けるのは相対的高コスト生産業者で、国家予算の前提原油価格を「40ドル」としているロシアより、米シェールの方が脆弱なのは火を見るよりも明らかだ。
だから、今回の「価格戦争」発動の背景には、昨年9月の「アブカイク被爆事件」(世界最大規模のサウジの原油処理施設・油田がドローン攻撃を受けて大破した事件)の後、米国一辺倒では国家を守れないと悟ったこともあるのではないだろうか。
米国とある程度の距離が出来るのは仕方がない、と思い切ったのではないか。
したがって、サウジは米シェール産業が打撃を受けるだろうことも考慮に入れた、と見ることができるのではなかろうか。
また「社会コスト」を勘案すると、サウジも自らが思っているほど低油価に強いとは言えないのではないだろうか。この点をサウジがどこまで認識しているかは疑問が残るが。
いずれにせよ今回の暴落は、荒波の中を再び海図のない航海に船出してしまった、ということになるのではなかろうか。
果たしてロシアが目論んでいるように、「経済原則」が働くのかどうか。
世界規模の新型コロナの蔓延を如何にして抑え込むか、という問題と共に、我々は歴史の証人になるのかもしれない。
さて、では「Aggressive move by world’s top exporter has sent shockwaves through market」というサブタイトルが付いた『FT』エネルギー部門シニア記者Anjli Ravalと同編集長David Sheppardの共著となる当該記事の要点を次のとおり紹介しておこう。
5つの疑問
■サウジが価格戦争の第一撃を加えたところ、石油価格は1日の下落としては1990年代初めの湾岸戦争の時いらい最大となる30%もの落ち込みを見せた。
■サウジが大幅値引きをして増産をするぞと脅したことが、国際指標であるブレント原油を31.02ドルまで引きずり落とした。米国の指標であるWTIは27.71ドルまで下落した。
■だが、なぜ新型コロナの蔓延が石油需要そのものをがたつかせている時に、世界最大の原油輸出国がかくも攻撃的に打って出る決定をしたのだろうか? そして、これが広範な石油業界にとってどのような意味を持つのだろうか?
なぜサウジは価格戦争を仕掛けたのか?
■サウジは「OPEC」とロシアをリードして、世界の経済活動に混乱をもたらしている新型コロナの蔓延に直面している原油市場を下支えすべく、大幅な減産をしようとしていた。だが、ロシアがサウジの方針を拒否したため、2016年いらい石油価格を引き上げるべく協調してきた同盟国を攻撃することにしたのだ。
■サウジは増産し、大幅値下げすることで対抗している。アナリストたちは、これは「OPECプラス」と呼ばれる同盟関係を崩壊せしめたロシアに懲罰を与えることを狙ったものだと指摘している。
■アナリストたちはさらに、サウジは世界最大の原油輸出国としての立場を強化したいと願っているのかもしれない、と付け加えた。今回の動きは、サウジが堂々とロシアや他の高コスト産油国を攻撃するつもりであることを行動で示したものだ。
■「『OPEC』内には(減産の)コンセンサスがあった。ロシアは拒絶し、4月1日から誰もが好きなだけ生産できる、と発言した。そこでサウジも、その権利を行使している、というわけだ」と、サウジの石油政策に詳しい1人は解説する。
■アナリストたちは、サウジのこのアプローチが賢明なものかどうか疑問視している。サウジ経済は、たとえサウジが他国から市場シェアを奪取できると信じているとしても、価格下落の悪影響を受けないわけにはいかないからだ。
■しかし、MBS皇太子の統治の下、サウジは自らの存在を主張する必要があると思ったときには、リスクをいとわず、予測しがたい行動をとると評価されている。
なぜロシアは減産に合意しなかったのか?
■ロシアは、新型コロナが石油需要にもたらす影響の度合いについて、行動を起こす前にしっかりと見極めたいと考えていた。
■だがロシアは同時に、米シェール業界を試してみたいとも強く思っていた。ロシアは、減産は、ロシアの犠牲の下、顧客を奪い取ることにより成長を続け、今や米国を世界最大の産油国に仕立て上げたシェール産業に命綱を与えるだけだと信じていた。
■国営石油「ロスネフチ」貿易子会社や、ドイツへのガス供給のための「ノルド・ストリーム2」パイプライン関連企業を含む、ロシアのエネルギー会社に対して米国が制裁を課していることは、ロシアの激しい怒りを買っていた。
■米シェール産業は過去10年間、成長はしていたが利益を生み出すべく苦闘を続けてきた。ロシア政府の戦略に詳しい人は、今こそ米石油産業に打撃を与えるチャンスだとロシアは考えているのだ、と指摘している。
■「『OPECプラス』の合意に基づき、繰り返し減産を続けてきた結果、減産した分の市場はすべて、ただちに米シェールに押さえられてしまっている」と、「ロスネフチ」の広報担当者は日曜日(3月8日)に語った。
■サウジがロシアに提案したものは、追加で150万BDの減産をすることにより合計で世界供給の約4%、360万BDの減産となるもので、参加するか否かの最後通牒(take-it-or-leave-it)を突き付けたものだった。それは、自らをサウジのジュニア・パートナーだとは思っていないロシアをイライラさせ、怒らせるものだった。
米シェール産業はどうなるのか?
■今回の価格暴落は、米シェール業界にとって極めて困難な時期に起こってしまった。過去10年間、ロシアとサウジを追い抜くほどに増産はしたものの、シェール業界は借金に溶かされており、投資家を遠ざけるものとなっている。
■その結果、価格下落にきわめて脆弱なものとなっている。年初から油価が大幅に下落しているため、残っていた拡張計画はすべて疑問視されている。
■だが、生産量への影響はさほどのものでないかもしれない。米シェールの大半を占める多くの小規模シェール業者は、高値のときにヘッジをしているからだ。供給量がすぐに減少するということは起こりそうにない。
■「我々の見方では、生産に歯止めをかけたいというロシアの考えを正当化するのに十分なほど早くには、米シェールの生産は減少しないだろう」と、「ユーラシアグループ」の中東北アフリカ部門のトップであるアイハム・カメルは指摘する。
■だが、多くのシェール業者が、抱えている負債を借り換えることで延期する(roll-over)ために新たな金融を手配することに苦労するかもしれない。エネルギー会社が発行した投資不適格な多くのジャンク債は、超安値(distressed territory)で取引されている。
■ドナルド・トランプ米大統領にとってこの価格暴落は難しい課題だ。低油価は、自らが何度も「OPEC」に値下げを要求しているもので、有権者に売り込んでいるものの1つである。だが、下落状態が長引くと、テキサスや北ダコタなどの産油州の経済に問題を引き起こしかねない。
価格は落ち続けるのか?
■短期間で石油価格が回復するかどうかは、新型コロナの蔓延を予測よりも早く抑え込めるかどうかにかかっている。
■トレーダーたちは、2020年の石油需要は10年以上前の金融危機のとき以来、初めて前年比マイナスに落ち込むかもしれないと警告している。陸・空の交通に制限がかかり需要が影響を受けているため、2020年の石油消費は、アナリストたちが年初に予測していたものより少なくとも1~2%は少ないものとなろう。
■だが、新型コロナが世界的なパンデミックになる可能性が高いので、短期間の原油動向の先行きは暗い。
■多くのことが、サウジがどれだけ積極的に増産するかにかかっている。サウジには世界のどの国よりも大きな余剰生産能力があるので、素早く増産することが可能で、向こう数カ月のあいだに100万BD以上の増産をする能力がある。輸出量を増やすために、在庫から供出することもできる。
■ロシアの増産能力には、おそらくより大きな制約があるだろう。低油価は、インフラや社会保障整備への投資をといったウラジーミル・プーチン露大統領の長期的な約束事を犠牲にしかねないものだ。
■サウジは、油価暴落の甚大なる影響がロシアを交渉テーブルに引き戻すことになるのでは、と期待しているのかもしれないが、それはありそうにない。
■「今回のサウジの新たなアプローチは、ロシアの立場を一層硬いものにしただけだ」と「エナジー・アスペクト」のチーフ・オイル・アナリストのアムリタ・センは言う。
■もし低油価が続くならば、他の産油国は投資不足により、拡張計画を縮小するか、生産量を減少せざるをえなくなるだろう。だが、それには時間がかかるし、そもそも石油需要の伸びは2025~2030年のあいだには減少するとすでに見込まれている。急激に価格が回復すると見るには時期尚早に見える。
大手石油会社にとっては何を意味するのか?
■2014年の大暴落の後、「ロイヤル・ダッチ・シェル」「BP」や「エクソンモービル」のような企業は緊縮経営を行った。
■彼らは、低油価でも利益を出し続け、市場全体が悪化するなかでも企業防衛をすべく、積極的にコスト削減を行い、資産を売却し、事業を効率化してきた。
■だが、彼らはより効率的になり、過去2年間には平均油価が65ドル水準でも100ドル時代より多くのキャッシュフローを生み出しているが、別の圧力に直面している。
■彼らは、向こう10年のあいだに需要がピークを迎えるかもしれないという予測により落ち着かない株主たちに、何としても十分な配当と戻し益を継続しようとしている。同時に負債を減らし、長期的には化石燃料離れが起こると考え、再エネなど新しいエネルギー源を求めて行動する必要がある。
■40ドル以下では、それは難しいだろうと、多くの投資家たちは考えている。株価はおそらく、向こう数日間圧力にさらされるだろう。
■「原油価格の下落によって、借入金の多い企業はより大きな影響をうけるだろう」と、世界有数の資産運用会社「アライアンス・バーンスタイン」のアナリストであるニール・べべリッジは指摘している。