角川歴彦(KADOKAWA取締役会長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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紙はIPの塊

佐藤 そのサイトでは、出版はしていないんですか。

角川 していません。自分たちは広告で収益を上げていて、書き手は出版社に紹介してくれる。だからいま出版社が押し寄せていますが、その先にも重要なことがある。

佐藤 作品の質ですか。

角川 そうです。書き手が読み手であり、読み手が書き手であるという中で、やっぱり編集者が介在して質を良くしないと本にならないんですよ。僕も時々読みますが、正直なところ、質がまだまだの作品が多い。ただ、人(キャラクター)が描けていないけれども、アイデアはいいという創作希望の人がいっぱいいるんですよ。だから、ここはもう少し人物を書き込めとか、シーンを作れとか、そういうアドバイスをすれば、どんどん良くなる。

佐藤 書籍は編集者次第のところがあります。

角川 一流の作家には、編集者はどうしても遠慮してしまうでしょう。

佐藤 どうぞどうぞ、という感じでしょうね。

角川 でも新人には、付箋をつけてここ、こうしましょうと、いろいろ注文をつけられます。昔、私の姉(ノンフィクション作家の故・辺見じゅん氏)がよくこぼしていました。新潮社と文藝春秋では、付箋のつけ方が違うって。新潮社の付箋は、著者が嫌になるような書き込みで、文藝春秋は激励するような書き込みがある(笑)。

佐藤 新潮社と文藝春秋だから細かく書いてくるのであって、さほどコメントしない会社もあります。

角川 そうです。それ以外の会社はあまりやらない。だからそうした出版社が「小説家になろう」に駆け込んでいっても、収拾がつかなくなるだけです。

佐藤 小説だけでなく、インターネットの投稿を編集者が見つけて、作品に発展させることもあります。若者に編集者が助言を重ねるうちに腕が上がって有名なノンフィクション賞を取った例もあります。

角川 アメリカの出版社はどこもUGCを無視しました。その代わりにUGCをやってきたのが、アマゾンです。大手出版社がアマゾンには本を出さず揉めた経緯もありますから、その影響もあります。アマゾンがアメリカで成功したのは、UGCを独占していることが大きい。一方、日本ではUGCを出版各社がやっていますから、そこのところでアマゾンは存在感がない。だから意外にアマゾンはその力を日本では発揮できていないんですよ。

佐藤 やっぱりコンテンツ作りをしているところは強い。

角川 紙はIP(知的財産)の塊です。原典であるテキスト本から、実写にしたり、アニメにしたり、あるいは漫画にしたり、どんどん広げていける。今まで出版社は作品を多方面に展開することを怠ってきたし、作家も要求してきませんでした。でもいまライトノベルの作家は、自分から漫画にしてほしいとか、アニメにしてほしいって言ってきますよ。

佐藤 それは角川書店がメディアミックスとして前からやってきたことですね。

角川 ええ、兄(春樹氏)の時代から事業化してきて、さらに次のレベルへ積極的に取り組んでいます。3月に公開される「Fukushima 50」もそうです。原作は、かつて新潮社におられた門田隆将さんの『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』です。いまの映画はディズニーを中心にあまりにも娯楽的なものが多いのですが、出版社がやるからには、こうした社会派の作品にも取り組まなくてはいけない。弊社は、2000年頃に高杉良原作の『金融腐蝕列島』、2010年頃に山崎豊子原作『沈まぬ太陽』、そして2020年はこの作品ですから、10年ごとに社会派映画を撮っていることになります。これは原発賛成、反対ということではなく、原発とは何なのかや自然の脅威を考えさせる作品で、出版社ならではのこだわりもある。そこを是非とも見て感じとっていただきたいです。

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