「世界一受けたい授業」で話題「わかり合えない人とどう付き合う?」 カラテカ矢部とブレイディみかこが語る
政治はクール
矢部 そのほかにも印象的な部分がたくさんあります。たとえば、息子さんが学校でのいじめに悩んで「僕は、人間は人をいじめるのが好きなんじゃないと思う。……罰するのが好きなんだ」と言う場面とか。
ブレイディ あれを聞いたとき、これは日本の人に伝えなきゃいけない言葉だと思ったんです。ツイッターも、メディアも、そういうふうになっているように見えますから。
矢部 あの言葉、僕も実感しました。自分に近いところでそういうことが起こると、これはいつ終わるのか、という怖さを感じます。
ブレイディ 怖いですよね。いじめるだけだったら、なかなかできないじゃないですか。自分が悪役になることだから、続けられない。でも罰するというのは自分が正しい側にいるってことだから、もしかしたらそこに快感があるのかもしれない。
矢部 うーん。正直、僕もそういう気持ちになって反省するときもあるんです。ネットの記事を読んでいても、自分に近いところのものだと「むむむ……」と思うんですが、スクロールして別の記事になるとまた違った感情で見てしまったり。ああ、自分は気持ちの中で罰してしまったな……と。その前で立ち止まらなければいけないんですよね。
ブレイディ そこでダメだなあと思えるかどうかですよね。
矢部 あと、自分以外の人と接点を持つのも大事ですよね。息子さんが通っている中学校は、いろんな境遇の友だちがいるじゃないですか。大変なこともあるだろうけれど、いい環境だとも思うんです。僕、「電波少年」という番組でむりやり海外に行かされていた時期があったんです。韓国とか、アフリカの村とかに3カ月ずつ住むみたいなことを繰り返して。ふだんの環境と全然違うので最初は暮らしづらいなと思うところもあるんですけど、住んでみると分かりあえることもあるし、違うけどまあしょうがないかと思えることもあったりして。年齢とか、独身男性という共通点で仲良くなった人もいて、交流するうちに楽しいなあと思えて。息子さんが経験しているのと同じことを、僕も経験していたんだなって。そういう経験も描くことにつながっている気がします。
ブレイディ うちの息子が特別なわけじゃないんですよ。日本の中学2年生が書いてくれた感想文を書店さん経由で読ませていただいて、よく考えているなと驚いたこともありました。中学生って人生のことを真正面から考える時期じゃないですか。
矢部 僕もわけの分かんない本とか読んでました。
ブレイディ そんなニオイがする(笑)。だから会いたかったのかも。
矢部 息子さんはいま、どうされているんですか?
ブレイディ 音楽に夢中でiPhoneで曲とか作ってます。
矢部 将来的にプロになりたいとか?
ブレイディ どうなんでしょうね。前はサッカーの解説者になりたいとか言ってたんですけど、いまは政治家になりたいとか言ってますね。イギリスには貧困を解決したいと思っている若者も多くて、息子に限らず、政治のことを考えるのがクールだっていう感じもあるんですよ。矢部さんはこれからやってみたいこととかあるんですか?
矢部 いつかは海外に住んでみたいなあと漠然と思っています。
ブレイディ 今度は海外の人たちとのふれあいを描くとか。
矢部 ああ、そういうの描いてみたいです。でも、ブレイディさんのこの本がいいのはちゃんと生活があるからで、僕が観光で行って描いてもやっぱりなにも分からないっていうか……。
ブレイディ じゃあ、働いてみましょうよ! あるいは学校に通ってみるとか。
矢部 先生に進路相談までしてしまった(笑)。
ブレイディ 矢部さんがそういうの描くなら読んでみたいな。『大家さんと僕』で世代を超えたんですから、次は国境や人種を超えた、エンパシーシリーズを読みたい。
矢部 じ、じゃあ、そのときは先生、よろしくお願いします(笑)。
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