【新型コロナ】デマと分かっていてもトイレットペーパーを買い占める人の心理状態とは?
避難しない人でも、買い占めは参加
3月2日、毎日新聞は「新型肺炎:新型肺炎 トイレ紙、米、缶詰、納豆まで… 広がるデマ 広がる買い占め」と報じた。記事の一部をご紹介しよう。
《買い占めは米やパスタ、缶詰などの備蓄品や納豆にも及んでいる》
《大阪市内にある大手スーパーの担当者は「お客さん全体も通常より多く、食料品も売れている」と話した。米やパスタ、カップ麺、冷凍食品、缶詰などの備蓄品を買い増す人たちが多いという》
《東京都江東区のスーパーでも売り切れる食品が目立ち、店長は「肉も含めて売り場には何も残っていない。手の施しようがない」とこぼした》
一体、どんな心理状態が、人々を買い占めに走らせるのか。新潟青陵大学大学院の碓井真史教授(社会心理学)に取材した。
「ここ数年、日本では大規模水害が発生してもパニックが発生せず、住民が避難所に向かわないことが問題視されてきました。ところが今回、日本で久しぶりにパニックが発生したわけです。私のところにも東京のメディアだけでなく、地元新潟のメディアからも取材の依頼をいただきました。いかに全国的な現象か分かります」
水害の報道で、「正常性バイアス」という社会心理学、災害心理学の用語を耳にした方も少なくないだろう。未曾有の大雨を目の当たりにしても、「まだ大丈夫。避難の必要はない」と考えてしまうことを意味する。
「トイレットペーパーのデマに対しては、この“正常性バイアス”が働かなかったということです。いくつか理由は分析できます。まず私たちは、実際にマスクの不足に直面していました。『マスクの次はトイレットペーパーだ』というデマを信じてしまう下地が存在したことは否めません」
品不足のインパクトは強烈、という要素も大きいという。それに比べ、「これからの2時間での雨量は100ミリを超すでしょう」とテレビで報じられても、なかなかイメージが湧きにくい。
「避難勧告と避難指示の違いが分からない、という報道もありました。災害情報を自分の問題と受け止めるのは、意外に難しいのです。逃げ遅れつつある住民が『大丈夫』という勘違いに気づくのは、隣の住人が逃げるのを見たり、近隣住民から避難を誘われたりした時です。その時に初めて自分自身の問題と捉えます。しかしトイレットペーパーの買い占めは、容易に理解できます。何しろスーパーに行けば、現実に商品棚が空になっています。その視覚イメージは強烈で、あっという間に危機意識が醸成されます」(同・碓井教授)
碓井教授は「人間は雨量や震度、風力といった数字では動かない。しかし、棚が空っぽというビジュアルなら動くということです」と指摘する。
「また、避難所に移動するのは、相当な精神的負担です。誰だって住み慣れた自宅を離れたくないでしょう。このために正常化バイアスが働きやすい状況が生まれます。一方、買い物に心理的なストレスは存在しません。誰もが普通にスーパーやデパートに向かいます。心理的ハードルが低いわけです」
しかもマスクやトイレットペーパーは価格も安い。簡単に買い占められるという側面も見逃せない。
ツイッターに「新型コロナの影響でダイヤモンドが品薄になる」というデマが流れても、ダイヤの指輪を買い占める一般市民は皆無だろう。
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