野村克也さんが説いた「女性上位のほうが国は栄える」「憲法より礼儀」の真意
子どもからビジネスマンにまで響いた「野村克也」金言集(2/2)
2月11日に亡くなった野村克也氏が遺した、金言の数々。それは野球論を超えて“人生”そのものの本質を突いたものだったといえるかもしれない。
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〈クレバーで指導力があるノムさんも、沙知代夫人の尻には敷かれっぱなしだった。そのわけを知るために、ノムさんの女性論も紹介しておきたい。〉
やっぱり母親の影響を受けてるんだと思う。うちの親父は俺が3歳のときに戦死してる。だから、ずっと親父の顔を知らずに生きてきた。男は妻に先立たれると、耐えられなくなって再婚する人が多い。でも、母親は戦争で未亡人になっても、女手一つで子供を育てるじゃない。やっぱり女性は強いですよ。男なしでも生きていける。それを身に沁みてわかってるから、どうしても年上の強い女性に惹かれるんだ。
こっちは学のない野球選手でしょう。そういう自覚があったからこそ、奥さんに出会ったときは衝撃を受けた。子供を2人も抱えながら世間と対等に渡り合うなんて、こんなしっかりした女性がいるのかって。もらった名刺には「代表取締役社長 伊東沙知代」と書いてある。俺は女社長なんてお目にかかったこともなかった。やり手社長だよ。英語もペラペラだったよ。
〈むろん、ノムさんが騙された面もある。〉
「どこで英語を習われたんですか」と聞いたら、「コロンビア大学」って言ったの。ウソだけどね。まあ、自己紹介は全部ウソだった。
〈それでも、こう言い切っていたのである。〉
奥さんと付き合って南海をクビになり、奥さんが脱税容疑で逮捕されたせいで阪神の監督も解任された。すべて俺じゃなくて、奥さんが原因ですよ。内助の功なんてなにもない。それでも、奥さんに対する恨み言は一切ないね。
〈この夫婦観を一般論に落とし込むと、次のような表現になった。〉
野球でも「優勝チームに名捕手あり」でしょう、結局はキャッチャー次第、つまり女房役の存在がなにより大きいんだよ。夫婦も奥さんにリードしてもらってるのが一番いいと思う。大会社の社長を何人か知ってるけど、お宅を訪ねると間違いなく奥さんが強い。玄関に三つ指をついて挨拶するタイプは見たことがないね。旦那さんが喋ろうとしても、「アンタ、ちょっと黙って!」とピシャリ。反対に出世できない男の家に呼ばれると大抵、旦那が威張り散らしてる。女性上位のほうが国は栄えるんだ。本当に強いのは女性だよ。
〈ちなみに野球選手になったのも、母子家庭での貧困生活と関係があるそうで、こんな意外なエピソードも語っていた。〉
兄貴が、こいつは男だから高校ぐらい出しておかないと将来苦労するよ、と母親を説得してくれて高校には行けたけど、貧乏が嫌で嫌で。大人になったら絶対に金持ちになってやる、という意思がどんどん強くなって、美空ひばりさんがデビューしたので、俺も歌手になろうと思って音楽部に入ったんです。でも、高いドの声が出なくて、上級生に、いっぺん声をつぶしてみろと言われて、海に向かってワーッと叫んで、声がガラガラになって母親に心配かけただけでした。
音楽の才能はないとわかって、次は映画。そのころ映画館は連日満員で、映画館の前をうろうろしていると、館長さんがタダで入れてくれたので、毎日映画を見て、主役の演技とセリフを覚えて、鏡の前で真似していた。でも、ある日ふと我に返って鏡を見て、この顔じゃ無理だと。それで映画俳優もあきらめて、もう金持ちになれるのは野球しかなかった。
〈とはいえ野球の指導者としての言葉も、若いときの苦労の賜物であるのは、言うまでもない。次の言葉は、ヤクルト監督時代に得られたものである。〉
ミーティングの場や、選手に直接指導するとき、絶対言っちゃいけない禁句を決めてあるんです。「最近の若いやつは」「昔はこうだった」。よくそういう心境になるんですが、こんなことを言いたくなるのは完全な敗北ですからね。人間が絶対勝てないものに、時代と年齢があるわけですから、時代の変化と照らし合わせながらやっていくしかない。
ただ、豊かな時代、過保護に育っているだけに、彼ら若者が鈍感であることは間違いないですね。「人間の最大の悪は何であるか、それは鈍感である」というトルストイの名言が好きですが、本当にうまい言葉です。
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