梅宮アンナが明かす「梅宮辰夫」の最期 “パパに腎臓をあげる”と言うと…

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「お前なんか必要ない!」

 人工透析を始めるとわが家の生活も一変しました。何しろ、週のうち月・水・金の3日は朝7時に真鶴の家を出て、小田原の病院で4時間の透析を受け、帰宅するのは午後2時過ぎ。全身の余分な水分を取り除くので、透析が終わる頃には喉がカラカラに渇いて、もの凄い脱力感に襲われる。それこそ、1日おきにフルマラソンを走るような感じなんです。透析の後に、私が「パパの好きな焼き鳥屋さんに行こうよ」と誘っても「あぁ、今日はいいや」。とにかく人間の欲求が根こそぎ奪われちゃうんですね。

 うん、それは悔しかったな……。パパはあれだけ多くのがんを乗り越えてきたでしょう。4年前に十二指腸乳頭部がんで11時間の大手術を受けたときも、成功する確率は“五分五分”と言われながら見事に生還した。パパの「九死に一生スペシャル」はこれで何度目かなと思ったほど。

 それでも、もしかしたら、がんのまま終わらせてあげた方がよかったのかもしれないな……。

〈そう語るアンナの目は大粒の涙を湛えていた。実は、彼女は最愛の「パパ」が人工透析に至る前、医師にある“決断”を伝えたという。それは腎臓移植の申し出だった。〉

 いまだから言えますけど、私は最初から人工透析には反対だったんです。とはいえ、透析を受けないで尿毒素が溜まると、10日くらいで命を落としてしまう。それで、私もいろんな本を読み漁って、欧米では透析よりも腎臓移植が推奨されていることも知りました。それならば、って。

 パパには迷惑を掛けたくないと思って生きてきたけど、過去の恋愛関係を含めてパパを心配させちゃったのは事実だから。私にできることがあるなら、パパが大変なときにこそ恩返しをしてあげたいと思った。パパのためなら腎臓のひとつくらい惜しくない。自分でも驚くほど自然に「腎臓をあげよう」と思いました。

 ただ、お医者さんからは、

「梅宮さんは高齢で、しかも、がん体質です。腎臓を移植してもがんが転移する可能性は否定できません。アンナさんの思いは、娘さんのために取っておいてあげてください」

 と言われ、私の願いは届きませんでした。

 でも、パパも本心では移植を望んでいたんじゃないかな。私が「腎臓をあげる」と伝えたら、小さな声で「うん」と言ってたから。医療のことはお医者さんにしか分からないけれど、“パパがパパじゃなくなっていく”ところを目の当たりにした私としては、いまだに「あげたかった」と思います。

 それくらい最期の1年間は、梅宮家にとって大変でした。介護と聞くと、「シモの世話」ばかりを想像していたんですが、家族にとって本当に大変なのは、病気が人間を変えてしまうことなんだと実感しました。

 パパは度重なるがん手術で十二指腸と胆嚢を全摘して、膵臓と胃の一部も切除しているんですね。つまり、健康な人と比べて動いている臓器の数がかなり少ない。そのせいか、体温が極端に低かった。私がパパの手を握ると氷のように冷たいので、「もしパパの身に何かあっても、体温を確認したところで生きているかどうか判断できないんじゃないか」と思ったほど。

 真鶴にいるときは、背中にカイロを貼って、レッグウォーマーまで履かせていたんですが、本人はそれでも寒くて耐えられない。だから、たとえ真夏でも暖房の設定は30度。とはいえ、家族は堪りませんよね。

 私が真鶴に様子を見に行ったときに「暑いなぁ」と漏らしたことがありました。このひと言にパパが激怒。「出て行け! ここは俺の家なんだ。お前なんか必要ない!」って怒鳴られたんです。ショックでしたよ。いままでのパパなら「ごめんな、そうだよな」と言って空調の温度を下げて、上着を羽織っていたと思う。あの優しいパパがまるで別人になったみたいだった。

 もちろん、病人に向かって言い返すのは可哀想だと思って、最初の頃は我慢していたんです。それなのに、仕事の合間を縫って車を飛ばして足を運んだら、また怒鳴られてしまった。

 売り言葉に買い言葉で「そんな言い方しなくてもいいじゃない。じゃあ、帰るよ」と返したら、パパも「あぁ、帰れよ!」。

 やっぱり憎みましたよ。

 もちろん、パパを嫌いにはなれない。そうではなくて、大好きなパパをここまで追い込んだ病気のことを心の底から憎みました。

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