球春到来にタックル練習のススメ(中川淳一郎)

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 球春到来! プロ野球もキャンプインしましたが、先日放送された「サンデーモーニング」(TBS系)で張本勲氏がけっこう鋭い指摘をしていました。この番組は、キャンプでの斬新過ぎるトレーニング法を紹介し、張本氏から「こんなの意味がないよ」と言わせることを毎回狙います。時には「喝」まで出る。

 この時は普通のボール、でかくて重いボール、穴の開いたプラスチック製の軽いボールを10回ずつ打たせる、という打撃練習法を紹介。張本氏は「こんなの意味ないよ。試合で使うのは普通のボールだから普通のボールだけを打てばいい」と指摘しました。ハンマーを振り下ろす練習には「変な筋肉をつけちゃダメ」、護摩行にも「熱いでしょ?」と否定的。

 結局、張本氏は走り込みによる下半身強化こそ野球にはもっとも大切だと考えているのですが、司会の関口宏氏から、なぜこんなことをやるのかと聞かれ、その返答が秀逸過ぎた。

「うまくいった時にコーチが『あれは私が導入したトレーニング法』と言えるからですよ」

 確かに分かります。かつてはメディアやファンからの注目を一身に浴びていた人が脇役に回ると、なんとかして目立ちたいという気持ちになるもの。珍妙(いや、“斬新”でした)な練習方法を考案すればテレビに映れますからね。

 会社でも妙なルールを考案する上司ってのが時々いるものです。前に聞いた話ですと、誕生日を迎えた人の席の周りで皆が「ハッピーバースデー・トゥー・ユー」を歌う習慣を作ろうとした上司がいたそうです。祝福された当人は恥ずかしがっていたとか。翌月に誕生日を控えた部下はその様子を見て、「次はオレの番か……何とかしてやめさせなきゃ」と思うも、上司の厚意なのは理解しているため、なかなか切り出せない。でも絶対にあれはイヤだ! そこで次に誕生日が来る同僚と「祝われる側も歌う側も恥ずかしいじゃん。一緒にあの習慣やめるよう伝えようぜ」と申し合わせて、その習慣をなくすことに成功したそうです。

「あの上司は優しくて部下思い」との評判獲得を目指したのに、結局は「あの上司はズレている」という評価になってしまった。張本氏が指摘するように、珍しいことをやって名を残そうとすると、陰で笑われたりしてしまうものです。

 私は素人なので、プロのコーチに意見はできませんが、プロ野球選手はキャンプ期間中、一度は総合格闘技の道場でトレーニングすると良いのでは、と考えています。盗塁は投手との駆け引きと瞬発力が重要ですが、タックルの練習は両方を学べます。あとはアレですよ、年に必ず何度かある「乱闘」。アレに役立ちます。やたらとパンチをよけるのが上手だったり、一気に関節を極(き)めて乱闘を収束させる達人なんかが多いチームがあったら、「中日の選手の乱闘は美しい……」なんて集客効果も見込める。

 特にピッチャーには必要かも。何しろデッドボールの後に殴られる役割なので、総合格闘技道場の練習風景を取材してもらい、「あいつは青木真也の特訓を受けた。返り討ちに遭うからやめておこう」と、自らの身を守る抑止力になります。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年2月27日号掲載

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