新型肺炎で「文在寅」弾劾 “習近平に忖度するな、中国からの入国を全面禁止せよ” と保守

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社説はすべて「中国への忖度」批判

――ありとあらゆる角度からの政権攻撃ですね。

鈴置:翌2月27日の社説もそうでした。まず、「政府が『国民のせい』『自画自賛』と詭弁を続ければ、国民の憤怒が爆発するだろう」。

「国民のせい」とは日本の厚生労働相に相当する保険福祉部長官が2月26日、新型肺炎の感染拡大に関し「もっとも大きな原因は中国から戻った韓国人だった」と国会で答弁した件を指します。

 中国からの旅行者の全面遮断は意味がないと説明する中での発言でしたが、感染経路も分かっていないのに「韓国人だけが悪いと決めつけるのか」と強い反発を呼んだのです。

「自画自賛」とは同じ日に与党幹部が、韓国の感染者数が多いのは検査体制が充実していて患者の発見能力が高いからだ、との趣旨で語ったことへの批判です。

 この社説は「発生後の1カ月で1200人もが病院に運ばれている。早期に中国という感染源を遮断すればこんなことになっていなかった」と指摘、政府・与党の責任を回避する姿勢を糾弾したのです。

 もう1本の社説「『一度も経験したことのない国』に放り込まれた国民の当惑」は主に経済面からの批判です。中国との国境を開け続けたために新型肺炎が流行し、文在寅政権の失政でただでさえ苦境に追い込まれていた経済をさらに悪化させた、との主張です。

 見出しの「一度も経験したことのない国」とは文在寅大統領がしばしば語る言葉で「素晴らしい国を作ってみせる」との意気込みを示します。この社説は「大統領のあの約束が、このような形で実現したわけだ」と皮肉ったのです。

 この日の社説は2本でしたが、いずれも「中国への忖度」を批判したものでした。

 2月28日も社説「韓国人隔離の中国は『外交よりも防疫が重要』、韓国は『防疫よりも中国』」で中国の顔色ばかりを見る韓国の情けなさを嘆きました。残りの2本も「新型肺炎下で無能・無策ぶりを露呈する文在寅政権」を批判するものでした。

患者が急増するのは日韓だけ

――朝鮮日報の政権叩きはすざましいですね。

鈴置:韓国の保守は青瓦台による蔚山(ウルサン)市長選挙への介入事件を掲げ、政権を攻撃をしてきました。ただ、これは爆発力に欠けました。ほとんどの国民にとって身近な話ではないからです。

 一方、突然に降ってわいた新型肺炎。自分の命にかかわる問題ですから、国民の関心は当然に高い。感染者数はウナギ登りだし、死者は2月28日午前現在で13人を記録しました。

 ことにこの問題で「文在寅の失策」を突けば賛同を得やすい。「門を開け続けた韓国と日本では感染者が増え続けるが、完全に門を閉じた豪州、ニュージーランド、台湾、香港、マカオでは感染は広がっていない」との解説は耳にしっかりと届くからです。

 なお、韓国は日本の後を追う形で、湖北省だけを入国禁止地域に指定しています(「韓国で新型肺炎の患者が急増 保守派は『文在寅政権の無能、無策』と総攻撃」参照)。

 保守側にとって「中国の顔色を見る政権が我々を死に至らしめる」との主張ほど、有効な武器はない。縦横無尽に使うのは当たり前です。

保守の次の手は大衆集会

――でも、「弾劾は不可」と請願を政府に蹴り返されたら……。

鈴置:保守は「居直った!」と非難し、それをテコに大衆運動を盛り上げる作戦でしょう。韓国ではデモや集会が国の進路を定めます。

 朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾を思い出して下さい。当時の与党、自由韓国党は過半数の議席を持っていたので、普通なら弾劾訴追案は国会を通らないはずだった。しかし多数の国民がデモや集会に繰り出すのを見て、造反者が続出して可決されてしまった。

 憲法裁判所が弾劾訴追案を受け入れ大統領を罷免するかに関しても、疑問符が付いていました。なぜなら、弾劾の理由となった職権乱用が成立するかは、専門家の間でも議論が割れていたからです。

 しかし憲法裁判所は弾劾訴追案にはなかった「憲法を守る意思がない」ことも合わせ技にして、裁判官8人全員の合意で罷免を決めてしまったのです(『米韓同盟消滅』第4章第1節を参照)。

 憲法裁判所も大規模なデモと集会に忖度したのです。今、保守派は「今度はこちらの番だ」とばかりに、大衆を動員しての弾劾を狙っているわけです。

 大衆集会やデモといえば、左派の独占的な手法。保守派は苦手でした。ところが2019年秋、不正の塊とみなされた曺国(チョ・グッ)氏の法務部長官就任に反対する大集会で、保守は初と言ってよい「成功体験」を味わったのです。

 曺国氏の権力を利用したインサイダー取引疑惑や、娘の不正入学疑惑などに怒った普通の人も参加し、保守が主催した集会は1987年の民主化闘争以来とされる数十万人の規模に膨れ上がりました(「『反文在寅』数十万人デモに“普通の人”が参加 『米国に見捨てられる』恐怖が後押し」参照)。

 この勢いに押された政権側は曺国氏を罷免せざるを得ませんでした(「曺国法務長官が突然の辞任 それでも残るクーデター、戒厳令の可能性」参照)。

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