新型肺炎で「文在寅」弾劾 “習近平に忖度するな、中国からの入国を全面禁止せよ” と保守
新型肺炎の患者が急増する韓国で、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の弾劾運動が始まった。スローガンは「国民の命よりも中国が大事なのか」だ。韓国観察者の鈴置高史氏が展開を読む。
100万人が署名した弾劾請願
鈴置:2月4日、青瓦台(大統領府)に文在寅大統領の弾劾を促す国民請願が提出されました。同月25日にはネットを通じて署名した人が24万人を超えました。
1か月以内に20万人以上の同意を得た請願に対しては、青瓦台など政府側は回答する義務があります。これまで、義務が発生して1か月以内には答えてきたので4月初めには何らかの回答があると見られています。
中央日報の「『文大統領弾劾』 青瓦台の国民請願が20万人超」(2月26日、日本語版)などが報じています。青瓦台のホームページ「国民請願」を見ると、2月27日に署名者は100万人を超えました。
――政府は請願に対し、どう答えますか?
鈴置:もちろん、文在寅政権は文在寅弾劾の請願を否定します。請願した人たち――保守派もそれは織り込み済み。請願提出は政権打倒運動に弾みをつけ、4月15日の総選挙を有利にすることが目的です。
韓国ではなく中国の大統領だ
――弾劾の理由は?
鈴置:「国民請願」のページに載っている「文在寅大統領の弾劾を求めます」のポイントを訳します。
・今回の武漢肺炎(新型肺炎)において、文在寅大統領の対処を見れば見るほど、大韓民国の大統領ではなく中国の大統領を見るようです。
・武漢地域の封鎖直前に抜け出した中国人が500万人を超えるというのに、封鎖済みの湖北省を訪問した外国人だけを制限の対象にし、それ以外の地域のすべての中国人らは引き続き韓国を訪れることを許したのは、無制限に開放したのと同然です。
・大韓民国の大統領として何よりも重く考えるべきは「自国民の保護」ではないでしょうか? 本当に自国民を考えるのなら、中国全域を入国禁止の対象にせねばなりません。
・これ以上、見過ごすわけにはいきません。文在寅大統領を我が国の大統領と考えるのは難しい。弾劾を求めます。
要は、中国の顔色を見て国民の命をないがしろにするのか、との批判です。この国民請願だけではありません。野党第1党で保守の未来統合党もまったく同じ主張をしています。保守系紙も同様で、保守が一丸となっての弾劾運動です。
「中国全土の制限」を求めた疾病本部と医師会
最大手紙の朝鮮日報は連日、社説欄を「中国への忖度批判」で埋め尽くしています。たとえば2月26日の社説は3本すべてが「中国と肺炎」を論じました。韓国語版を翻訳して引用します。
「疾病本部の『中国という感染源を遮断』要請を無視した青瓦台」は防疫の専門家集団で、感染症への緊急対応などを担当する疾病管理本部や大韓医師協会が「中国全土からの入国制限」を要求したのに、青瓦台が無視したと指摘しました。
――なぜ、無視したというのですか?
鈴置:この社説は習近平主席の訪韓を実現するためだ、と断じました。中国からの入国を全面的に禁止し続ければ、習近平主席の入国も拒否せざるを得なくなるからです。
証拠として、2月20日に文在寅大統領が習近平主席に電話して「中国の困難は我々の困難だ」と語ったうえ、青瓦台が「両首脳は習近平主席の今年上半期の訪韓を推進する」と発表したことを挙げました。そして「訪韓が重要だから、防疫当局の口をふさいだのと同じだ」と痛烈に非難したのです。
もう1本の社説「中国は防がない政府・与党、会議後に『大邱封鎖』に言及」は2月25日に政府与党協議会が「大邱地域を封鎖する」と発表して問題化した事件を論じました。
武漢や湖北省のように、一切の交通を遮断して出入り禁止にするのかと一時は大騒ぎになりました。
文在寅大統領は「感染の伝播を遮断する」意味だったと後で修正しています。「封鎖」を発表した与党「共に民主党」の報道官は軽率な物言いを理由に辞任に追い込まれました。
朝鮮日報はこの社説で政府・与党を攻撃する際、「中国の全面封鎖はできないくせに」と当てこすったのです。
3本目は「今や中国が韓国を強制隔離、どうしてこんなことが起きるのか」です。2月25日、山東省の威海市は韓国からの航空便の乗客全員の14日間隔離に乗り出しました。
これに対し、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官が中国の王毅外相に電話で抗議した、と韓国政府は発表しています。
しかし、朝鮮日報はこの社説で「防疫はこう(中国のように)せねばならない。中国という感染源を封じない韓国政府の方がおかしいのだ」と主張、重ねて「中国からの入国の全面禁止」を訴えたのです。
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