医療ドラマと刑事ドラマが横並びで共倒れするのを横目に「無職中年兄弟」が主役のテレ東ドラマ

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 茶色い喫茶店が好きだ。昭和レトロなんてもんじゃなく、黄ばみを通り越して茶ばんだ感じが好き。茶色いとなぜか落ち着く。たぶん、昭和40~50年代、電化製品が軒並み茶色かったからかな。テレビもステレオも、なんなら車の内装にも、なぜか木目調の部分があって、それは「家具調」と呼ばれた。高級感を出すためなのか、それとも親近感や温かみを出すためなのか。

 テレビの画面に茶色い喫茶店が出てくると、それだけで胸キュン。胸キュンの使い方が間違っていると思うが、そんな胸キュンドラマを。テレ東の「コタキ兄弟と四苦八苦」である。

 塾講師を休職中、事実上は無職で独身の兄・一路(古舘寛治)。やや神経質で生真面目、プライドも高いせいか、転職もうまくいかず。やることもないから、「現代用語の基礎知識」を音読したり、午後は近所の茶色い喫茶店「シャバダバ」へ。バイトのさっちゃん(芳根京子)目当てだ。親が遺した実家暮らしで、貯金を取り崩す倹(つま)しい生活だが、中年男ひとり、気楽なもんだ。

 と思ったら、弟の二路(滝藤賢一)が8年ぶりにふらりと現れ、家に転がり込む。教職の妻(中村優子)に留学中の娘がいる滝藤は、超楽天家の専業主夫。性格も生活信条も真逆の兄弟が同居生活を始め、ひょんなことから「レンタルおじさん」業を請け負う、という物語。

 他局のドラマが、医者が命だ病気だ、刑事が事件だ事故だと横並びで共倒れしているときに、まさかの無職中年兄弟。テレ東らしい。それでいい。それが、いい。

 四苦八苦っぷりは今のところ、兄の古舘が背負っている。折り目正しく慎み深く、質素な暮らしをしてきたのに、無頓着・無責任・能天気で怠け者の滝藤が突如生活を侵食してきたのだ。滝藤はああ言えばこう言う、しかもやることなすこと案外合理的で臨機応変、物事がうまくいく。回りくどくて慎重、慮りすぎて失敗する古舘は、プライドもズタズタで苦悩悶々。兄、大変。

 ただし、滝藤にもちゃんと極上の苦悩をご用意。妻が離婚を要求してきたこと、妻と兄が自分に内緒で会っていること、妻が兄に借金していたこと。そりゃ悶々。

 この兄弟の、反りが合わないからこそ噛み合う丁々発止は、聞いていて楽しい。いがみ合いや罵り合いではなく、高度な皮肉とユーモアの遊戯。それでいて、レンタルおじさんとして協力し合って、うっかり人助けする、というのも心が和む。

 そんなふたりに依頼してくる人々(市川実日子や岸井ゆきの、望月歩など私の好きな役者ばかり)は、人間関係の断絶や偽装、整理整頓などが目的だ。「幸せは人それぞれ」をさりげなく匂わせる。湿った人情話だけではなく、ドライで合理的な解決策が人の心を救う話もある。正義と正論をふりかざさない湿度がちょうどいい。バイトの芳根が密かに喫茶シャバダバを乗っ取ろうと考えているのも、カラッとした欲深さで快い。

 今後、兄弟の確執をどう描くか。波乱も断絶もありそうだが、きっと家具調に仕上がるに違いない。家具調って、もはや死語だけど。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年2月27日号掲載

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