澤田秀雄(HIS会長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
旅は人間を大きくする
澤田 僕も途中、モスクワには2、3日いましたが、みんな親切でしたね。
佐藤 今から考えれば、73年くらいはやっぱりソ連には自信があったと思います。70年代終わりのアフガニスタン侵攻までは、経済的にも豊かだったし、平和な国だった。
澤田 ただ、モスクワは暗かったな。色がない街という印象があります。私はモスクワから列車でウィーンに抜けたのですが、ああ、明るいところに来たなと思いましたから。
佐藤 モスクワはネオンが全くなかったですね。
澤田 ただ公共施設はみんな立派でした。地下鉄も、エスカレーターの壁面には彫刻が施してある。
佐藤 エスカレーターは木製でした。
澤田 ええ。それでものすごく速い。地下鉄がとても深いところにあるのは、防衛のためなんですかね。
佐藤 それもありますね。
澤田 どうして東欧諸国を回ろうと思ったのですか。
佐藤 中学時代の塾の先生の影響で社会主義に関心があったんです。またブダペシュトのペンフレンドと中学1年から文通していて、彼に会いに行こうと思ったのもあります。
澤田 よくご両親が送り出しましたね。
佐藤 やっぱり親が変わっていたのでしょうね。父は東京大空襲を体験して終戦間際に召集され中国へ出兵しました。一方、母は沖縄戦の生き残りです。両親とも戦争の中で、高等教育を受けた人の見識の確かさを目の当たりにした。だから、高等教育をきちんと受けておくこと、そして見聞を広げておくことの二つが教育方針で、この旅行は埼玉県立浦和高校に受かったご褒美です。自分で旅行の仕方や旅先の状況を調べて、ソ連はインツーリスト(国営旅行社)のシステムがしっかりしているから一人でも大丈夫だし、共産圏はむしろ治安がいいとわかって、一人でも行けると思ったんです。
澤田 その旅で得たことはものすごく大きいでしょう。
佐藤 大きかったです。一概に社会主義国と言うけれども、国によって違うし、英語もみんな上手くて、自由にものを考えていることがわかりました。その後も旅行で知り合った東ドイツの家族と文通しましたし、社会主義への関心はずっと続いていて、結局それが外交官になったり、その後作家になった原点なのだと思いますね。
澤田 私も20代で各国を回ってみてすごく勉強になったし、視野が広がりました。あの旅行をしていなかったら、今この会社はなかったんじゃないかと思います。
佐藤 旅は人を成長させます。
澤田 風景も暮らしも日本と全く異なるところに行くと、人はそこで旅をするために、つまりは生きていくために頑張りますよね。文化や生活習慣の違いなどを肌で経験すると、生きるエネルギーや想像力が高まってくるものです。だから旅は人間を大きくするのだと思いますね。
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