韓国で新型肺炎の患者が急増 保守派は「文在寅政権の無能、無策」と総攻撃
日本に勝った!韓国が上だ
――そんなことで「先進国になった」と言えるのでしょうか?
鈴置:韓国での感染者数が落ちついていたのに比べ、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」での感染も含め、日本で患者数が増え続けたからです。
韓国人はどんなことでも日本と比較します。今回は「MERSでは負けたが、新型肺炎では勝った」と快哉を叫んだのです。
元・在日韓国人で「The Korean Politics」編集長の徐台教(ソ・テギョ)氏は2月14日、日本語のツイッターで以下のようにつぶやきました。
・今のダイアモンド・プリンセス号と同じことを、韓国で、文大統領がやっていたらと考えてみてください。日本のワイドショーはずっ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~と付きっきりで取り上げるでしょう。「韓国検疫崩壊」とか言って。
「日本検疫崩壊」と当てこすったつもりでしょう。徐台教氏は翌2月15日にも、韓国がなぜ日本と比べうまくやっているかをツイッターで説明し、誇りました。以下です
・韓国政府は4月15日の総選挙を控え、感染拡大への対策において失態が許されないという緊張感があるのも大きい。さらに、過去のSARSやMERSを通じ整備された国家システムがある程度の水準で機能している。
・コロナウイルスに対する日韓の対応の差の一つは、予算投入の差というのは明白。具体的には調べていないが、韓国は1/28の段階で20億円以上を、その後も矢継ぎ早に予算を出し、さらには2000億円を超える予備費の投入も見越している。ニュースにも「~~自治体がコロナに~~億を投入」というのが目立つ。
日本に五輪開催の資格なし
――なるほど……。「韓国はすごいぞ」ですね。
鈴置:韓国各紙も「優れた韓国、劣った日本」を争って報じました。中央日報の「クルーズ船内の日本人乗客『これでは五輪開催できない。国際社会が強く問題提起を』」(2月15日、日本語版)はダイヤモンド・プリンセス号に乗っているという匿名の日本人の感染管理への不満と、日本は東京五輪を開く資格がないとの批判を報じました。
朝鮮日報の「衛生先進国、日本が赤恥…米国に続き、カナダ、香港、台湾もクルーズ脱出作戦」(2月17日、韓国語版)はダイヤモンド・プリンセス号の外国人を下船させるため、各国が航空機を派遣する状況を「日本が赤恥」との見出しで報じたのです。
中央日報の「韓国政府、日本政府に『新型肺炎の診断試薬の開発情報を提供する』」(2月18日、日本語版)は以下のように「韓国が上、日本が下」を強調しました。
・韓国では新型肺炎に感染したかどうかを6時間内に確認できる迅速診断試薬が開発されて今月から民間の医療機関に配布されたが、日本にはまだ迅速診断試薬がないことが分かった。
日本でも6時間で診断できますから、この記事は間違っています。事実には関係なく「韓国が上で日本が下」と断じて喝采を叫ぶのが韓国メディアなのです。
こうした上から目線の空気の中、2月18日には与党「共に民主党」の鄭春淑(チョン・チュンスク)議員が国会で「日本も新型肺炎の市中感染が始まっている。中国同様に汚染地域に指定すべきだ」と主張しました。
朝鮮日報の「与党議員、『日本も新型肺炎の汚染地域に指定すべき』」(2月19日、韓国語版)が報じました。この記事は姜京和(カン・ギョンファ)外交部長官の「中国から要請があれば、医療陣の派遣を積極的に検討する」との国会答弁も伝えています。
「先進国である韓国と、遅れた日本や中国」という図式を、韓国人は国を挙げて楽しんでいたのです。
中国人の入国を全て止めよ
――それが2月19日に暗転した。
鈴置:その通りです。韓国人は、それまでそっくりかえって日本を見下していただけに、「無能・無策」の文在寅政権への怒りも膨らみます。
2月20日午後、感染者の合計が104人になったことを報じた朝鮮日報の記事「武漢肺炎の(午後の)新規患者22人追加…全部で104人」(2月20日、韓国語版)が象徴的でした。
「日本のクルーズ船を除けば、韓国は中国に次いでもっとも多くの感染者が発生した国になった」と「日本に負けた」ことを強調したのです。
感染者が広範囲に広がった国同士で「数」で序列を付けてもあまり意味はない。きちんと検査すればするほど、感染者数は増える側面があるからです。
しかし、保守系紙の同紙はこれをテコに、政権批判に乗り出しました。2月20日の社説「広がるコロナ、中国感染源の流入放置を説明して欲しい」のポイントが以下です。
・世界各国が中国からの訪問を禁止した。だが、我々は中国の顔色を見ながら相変わらず傍観している。1日2万人だった中国人の訪問客は減ったとはいえ、1日数千人のレベルだ。
・民間専門家に続き、政府の防疫責任者までもが中国という感染源の流入遮断の必要性を口にする。ところが政府は「湖北省以外の地域からの入国の禁止も検討する」と言い続けるだけだ。なぜ、中国という感染源の流入遮断をしないのか、政府は説明したことがない。
・2月19日、出入国を担当する法務部の秋美愛長官が「我が政府の措置に対し、中国側が格別に感謝している」と述べた。国民が病に罹る危険を覚悟の上で中国人の入国を防がず、中国からの感謝の言葉を貰ったと誇る。これが政府の認識なのか。
なお、記事中の「民間専門家」とは大韓医師協会のことです。2月18日に会見したチェ・デチップ会長は「湖北省以外にも1万人の感染者がいる中国からの入国をすべて禁止すべきだ」と要求しました。
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