今は「風邪」と思ったら自宅待機すべし!

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【筆者:坂根みち子・坂根Mクリニック院長(略歴は文末に)】

 日本には、新型コロナウイルス(COVID-19)が広がりやすい素地があります。

 シンガポールでは、渡航歴に関係なく、咳、くしゃみ、鼻水などがあれば、5日仕事を休むこととなったそうです。感染がすでに拡大し、症状としては風邪と区別がつきにくいことから、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための仕組みだそうです(注1、本文末尾)。

 日本の状況も一緒です。企業や官公庁は、今の状況では、「風邪を引いたら出社停止」とすべきです。

 この数日、専門家の方々から新型コロナの臨床像が報告されていますが(注2)、初期は軽い風邪症状であることは間違いなさそうです。

 そうすると、中国・武漢で12月初旬に確認されてから日本への渡航が禁止されるまでに、日本にも新型コロナウイルスがたくさん入り込み、感染が広がっている、と考えたほうがいいでしょう。

 持病のある方や高齢者は重症化しやすく、その場合大抵7日程度で悪化していくようですが、ほとんどの人は軽症で済み、長引くので、その間周囲にウイルスをばら撒いているものと思われます。

 そして日本では医療へのアクセスが非常に良いために、「風邪気味なので早めに受診しました」と来院した患者さんの中に新型コロナ感染症の患者さんが含まれている(いた)可能性が十分あります。また、多少の体調不良では仕事を休めない社会の空気や通勤ラッシュも感染を拡大させていると思われます。それは、「PCR」(核酸増幅法)によるコロナの検査対象を広げた途端、陽性者が続出していることからもほぼ間違いないでしょう。

 国民の皆さんへ この先医療現場が崩壊しないためにお願いしたいことがあります。

 まず、今後は下痢も含めた、我慢できる程度の風邪症状での「早めの受診」は止めましょう(注3)。インフルエンザも新型コロナも風邪も、初期症状は一緒で区別がつかないのです。とりあえず3日から5日は自宅待機し、経過を観察してください。

 咳や熱、下痢等の何らかの感染が疑われる状態で大きな病院を受診するのは止めましょう。医療機関には、重篤な持病のある人が通院しています。今回の新型コロナは大変うつりやすいウイルスで、持病のある人にうつすと命取りになる可能性があります。

 どうしても医療機関を受診する場合は、入り口で必ず手指のアルコール消毒を行いましょう。

 来院理由を受付で最初に告げてください。

 その後は、診察が終わるまで、自分の目、鼻、口に触れるのはやめましょう。新型コロナウイルスは空気では感染せず、くしゃみや咳をかけられない限りは、触ったものから感染します。顔を触りたいときは、必ず前後でまたアルコール消毒もしくは手洗いを、何度でもお願いします。感染を広めないよう十分意識してください。

 医療機関、特に風邪症状での受診が多い診療所は、患者さんに対しては入り口での手指アルコール消毒を徹底させてください。

 急性の感染症での来院者は、風邪症状、熱、咳、下痢、腹痛、いずれであっても出来る限り隔離してください(車での待機もありです)。

 スタッフに対しては、1処置1消毒を徹底させましょう。マスクはマメに交換するゆとりがありません。スタッフが安易に自分の顔やマスクを触らないように指導してください。

 インフルエンザの迅速検査を施行するときも、新型コロナの感染かもしれませんから正面に立つことはやめて、咳やくしゃみがかけられないように十分な注意が必要です。

 病院の管理者は、重篤な疾患で通院している方やスタッフを感染から守るために、拠点病院以外は急性の感染症の受け入れを停止するべきです。守るべき優先順位を決めて対処しないと武漢のように医療体制が崩壊し、助けられる人も助けられなくなります。

 医療者は、発病していなくても、すでにウイルスを持っている人がいる可能性があります。自分が感染源にならないよう、基本的感染対策をきっちり行ってください。

 特に医師は、過労気味で人手不足の環境で働いている人も多く、ウイルス感染を起こしやすい状態ですので、最悪の事態を想定して行動することが求められています。ちょっとした風邪症状でも、今の状況ではコロナの感染を否定できません。武漢での医療者への感染も、咳や熱ではなく、腹痛で運び込まれた患者さんから沢山の医療者に広がってしまった事例が報告されています。

 国は、軽症者が医療機関を受診しなくて済むよう、スマホでの受診ができるよう早急に対応してください(注4)。「LINE」や「Face time」を使えば、今あるデバイスで十分可能なはずです。

 そして、国民に早めの受診はしないこと、企業に有給での自宅待機を認めるよう働きかけてください。

「PCR検査」は感度も今一つで、インフルエンザの迅速検査と同様、陰性でもコロナの感染が否定できませんが、それでも医療現場には必要とされています。検査をするしないの権限を公的機関にだけ持たせるのではなく、医療現場の声も聞いてください。

 臨機応変に危機管理体制へ切り替えができるか否か、ここが正念場だと思います。

 日本の医療現場は現在危うい状態の上に成り立っており、医療者への感染が知らないうちに進行すれば、重症化患者への対応も出来なくなり、感染がコントロール不能になるおそれもあります。

 新型コロナの相談指針が出されましたが、すでに保健所も含め医療現場は対応出来ない状態のところがたくさん出ています。この先現場が破綻する前に、医療機関は役割分担をして受診制限をすべきです。

【参考】
(注1)「咳・鼻水で5日休みを」シンガポールの新型肺炎対策から学びたいパンデミック時の休み方・働き方 中野円佳

(注2)COVIDと対峙するために日本社会が変わるべきこと 岩田健太郎

(注3)病院に行かないという選択を 坂根みち子

(注4)「新型肺炎」日本の対策は大間違い 上昌広

【筆者略歴】筑波大学医学専門学群、筑波大学大学院博士課程卒業。循環器内科医として約20年勤務ののち、2010年10月つくば市に現クリニックを開業。2014年4月1日より「現場の医療を守る会」代表世話人。同年より「日本医療法人協会 現場からの医療事故調GL検討委員会」委員長。

本記事は「MRIC」メールマガジン2020年2月19日配信Vol.033よりの転載です

医療ガバナンス学会
広く一般市民を対象として、医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から解決し、市民の医療生活の向上に寄与するとともに、啓発活動を行っていくことを目的として設立された「特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所」が主催する研究会が「医療ガバナンス学会」である。元東京大学医科学研究所特任教授の上昌広氏が理事長を務め、医療関係者など約5万人が購読するメールマガジン「MRIC(医療ガバナンス学会)」も発行する。「MRICの部屋」では、このメルマガで配信された記事も転載する。

Foresight 2020年2月20日掲載

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