前会長の逆襲「取締役入れ替え」株主提案で再波乱か「積水ハウス」

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 「積水ハウス」の和田勇・前会長兼CEO(最高経営責任者)らが、4月の株主総会に向けて、取締役の入れ替えを求める「株主提案」を会社側に提出したことが明らかになった。

 東京・西五反田の土地に絡んで、同社が55億円を騙し取られた「地面師事件」が、単なる詐欺被害ではなく、阿部俊則・現会長(事件当時・社長)らが「経営者として信じ難い判断を重ねた」ことによる不正取引であると主張、株主総会での阿部会長や稲垣士郎副会長(同・副社長)らの再任を阻む意向を示している。海外株主も和田氏らを支援しているといい、株主総会に向けて委任状争奪戦(プロキシー・ファイト)に発展する可能性も出てきた。

地面師事件で「返り討ち」

 和田氏ら株主が2月14日に会社に求めた取締役選任議案では、和田氏のほか、昨年6月まで常務執行役員だった藤原元彦氏、同じく昨年まで北米子会社のCEOだった山田浩司氏、現役の取締役専務執行役員である勝呂文康氏の4人の積水ハウス関係者に加えて、米国人のクリストファー・ダグラズ・ブレイディ氏ら7人の独立社外取締役を候補としている。

 会社側が総会にかける選任議案はまだ明らかになっていないが、現職の阿部会長、稲垣副会長、仲井嘉浩社長ら11人(うち独立社外取締役は3人)の再任を中心とした提案を行うものとみられる。

 和田氏は自身が選任されても代表権は持たないとしている。株主提案の狙いは経営権の奪還ではなく、事件の責任を取らない現会長らの排除にあるとしている。

 地面師事件は和田氏が会長だった2017年に発覚した。和田氏が18年1月に行われた取締役会で、この土地取引の決裁に関わった阿部社長(当時)に退任を求めたところ、阿部氏を除く10人の取締役の賛否が5対5に分かれて提案は流れたとされる。

 それを受けた阿部氏が、今度は逆に和田会長の解任動議を出し、和田氏を除く10人の取締役のうち6人が賛成、和田氏が辞任するに至ったと言われる。いわば和田氏が「返り討ち」にあった格好になったわけだ。

 和田氏追い落としを機に、阿部氏が会長、稲垣氏が副会長、仲井氏が社長という現体制が出来上がった。

 和田氏は積水ハウスを2兆円企業に育てた「中興の祖」と言われる一方、「ワンマン」と評されることも多く、それが事実上の解任劇の伏線にあったとみられている。

「隠ぺいを続けた」

 一方で、積水ハウスでは、地面師事件について社外役員による調査対策委員会を設置したが、阿部会長らは調査報告書の公開を拒み続けるなど、「隠ぺいを続けた」(和田氏)。

 調査報告書は、取引にあたっての社内手続きが杜撰だったことなどを指摘しており、原案では阿部氏の責任を厳しく問う記述があったことなどが、その後、明らかになっている。

 今も、現経営陣は事件の真相について詳細に説明しているとは言えず、真相は闇に包まれているとの指摘もある。海外の投資家などから積水ハウスの情報開示姿勢や、コーポレートガバナンスのあり方に疑問の声が上がっていた。

 株主提案の理由書では、地面師事件について、

 「真の所有者からの再三の警告等のリスク情報を無視し、売買決済日を 2 か月も前倒しした上、当社従業員が決済当日に警察に任意同行されながらも決済を強行するなど、経営者として信じ難い判断を重ねた結果である。この取引は、所有者との間に中間会社を入れるだけでなく、『ペーパーカンパニー』に現金に等しい『預金小切手』で代金を支払うなど、闇社会に金銭が流れる危険性を自ら高めており、現経営陣は上場会社の経営者としての資質を全く有していない。この取引は単なる詐欺被害事件ではなく『不正取引』である」

 と断じている。

 また、和田氏が返り討ちにあった取締役会を前に、「人事・報酬諮問委員会」が阿部氏を代表取締役社長から解任すべきと判断したにもかかわらず、取締役会が無視するなど、コーポレートガバナンス不全に陥っていると指摘。現経営陣に退陣を求めている。

 和田氏らは株主提案で、取締役の過半数を社外取締役にすることを提案し、積水ハウスのコーポレートガバナンスのあり方を問いたいとしている。

 さらに、新たに第三者委員会を設けて「不正取引」を徹底解明するとともに、

 「『不正を許さない強固なガバナンス』、『自由闊達な風通しの良い企業風土』、『盤石の経営基盤』を築き、持続的に企業価値の向上を図る」

 としている。

GPIFがどれだけ理解を示すか

 積水ハウスの発行済み株式数は、2019年1月末現在で6億9068万株。大株主名簿ではトップは信託銀行の信託口となっているが、「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」が、2019年3月末で同社株を5872万9500株保有していることを公表しており、発行済み株式数の8.5%に相当する、実質の筆頭株主とみられる。

 次いで、もともとの母体であった「積水化学工業」が6.1%を保有する。

 GPIFは直接議決権を行使しないが、運用委託先ファンドを通じて議決権を行使している。たとえば、取締役の選任議案では、会社側提案でも10.1%に当たる1万4731件で反対票を投じているほか、株主提案281件のうち4.3%に当たる12件で賛成票を投じている(2018年4月~2019年3月) 。

 和田氏らの株主提案が可決されるには、GPIFの資金を運用するファンドが、和田氏らの主張にどれだけ理解を示すかが決め手になるとみられる。

 さらに、財務局に提出された大量保有報告書によると、2020年1月末(決算期末)現在で、米投資会社のブラックロック・グループが合計6.16%を保有していることが分かっている。

 外国人投資家の保有比率は、2019年1月末段階では全体の22.7%を占めている。コーポレートガバナンスに厳しい目を注ぐ外国人投資家が、すべて株主提案に賛成しても過半数には到達しないとみられ、GPIFに加え、41%を保有する金融機関や、18%あまりを持つ個人投資家がどう動くかによって、議決は左右される見込みだ。

 大株主には、「SMBC日興証券」(2.33%)や「三菱UFJ銀行」(1.97%)、「第一生命保険」(1.76%)などが名を連ねており、こうした金融機関がどう動くかも注目点だ。

 保険会社など機関投資家は、あるべき機関投資家の姿を規定するスチュワードシップ・コードによって、保険契約者など最終受益者の利益を最大化するような議決権行使が求められており、会社側と株主側のどちらの提案が会社の利益に結び付くかといった判断も求められる。

呉越同舟の可能性も

 もっとも、4月末の株主総会までには時間があることから、現経営陣が、提案株主側の意見を受け入れた折衷案を策定して、会社側提案とする可能性もあり得る。

 阿部会長らは2018年3月に人事を決めた際、

 「ガバナンスに反省すべきところがあった」

 として、代表取締役に70歳の定年制を導入している。稲垣副会長は今年6月に70歳を迎えることから、再任候補から外れるか、取締役になっても代表権は持たない可能性が高い。

 また、阿部会長も現在68歳で、2021年10月には70歳を迎えることから、会社側が思い切った若返りや社外取締役の大幅増員などの選任案を出す可能性もある。この場合、78歳の和田氏の影響力が残る株主提案の選任議案に、機関投資家が賛成するかどうかは微妙だ。

 株主総会での取締役選任を巡って会社側に対抗する株主提案は、近年増加する傾向にある。

 2019年6月の「LIXIL・グループ」の株主総会では、潮田洋一郎取締役会議長(当時)に社長兼CEOを解任された瀬戸欣哉氏らが株主提案を出し、海外ファンドなどの賛成を得て、会社側提案に勝利した。ただし、瀬戸氏側が株主提案した8人の候補者全員が選任されたが、会社側も8人中6人が選任され、呉越同舟の取締役会となった。

 今回の積水ハウスに対する株主提案でも、候補者11人の一括選任を求めているものの、会社側候補者と株主提案候補者が入り混じって選任させる可能性もあるだろう。その場合、経営の主導権をどちらが握ることになるのか、さらなる波乱含みとなるかもしれない。

磯山友幸
1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト。著書に『2022年、「働き方」はこうなる』 (PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。

Foresight 2020年2月17日掲載

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