野村克也さんが語っていた「投手サッチーを失って」 晩年のぼやきインタビュー
「イチロー監督はダメ」
〈まず聞きたいのは、やはり、この春引退したイチローへの評価だろう。〉
イチローとの思い出といえば、1995年の日本シリーズでの対戦かな。
〈この年は野村監督率いるヤクルト・スワローズと、仰木監督率いるオリックス・ブルーウェーブ(当時)が、日本一をかけて対戦した。〉
イチローは当時からバッティングが天才的で、どうせ打たれるのはわかっていました。でも、せめてもの対抗策ということで、僕はマスコミを使うことを思いついたんですよ。事前にマスコミに「イチローの弱点は内角攻め」と話しておいたんです。こうしてイチローに内角を意識させ、実際には外角を攻めるという作戦です。実際、第2試合まではこれが通用したんだけど、イチローは頭がいいから、第3試合からは打たれるようになって、「こりゃ、あかん」と思ったね。
打撃の永遠のテーマは、変化球への対応だと思っています。イチローはそこが天才的にうまい。普通の打者はピッチャーが投げる前に、これまでのデータ分析などをもとに「速球か、変化球か」という予測を立てます。どっちが来るかわかっていないと、なかなか打てないですから。でも、イチローはそんなことを考えずにバッターボックスに立っても、ピッチャーが投球してから対応できてしまう。これは天才にしかできないことでしょう。
イチローはあと数年はやれるという気がしたな。彼の特徴は足が速いことだけど、その一芸があるうちは通用したと思うよ。左バッターだというのも有利だしね。僕の場合は、イチローと同じ45歳で引退したけど、38歳のころからインコースを打つのが難しくなりましたね。インコースを打つには、体を素早く回転させる必要があるけど、歳をとると、それが鈍くなってくるんです。
イチローの今後ですけど、もし監督になったら、どんな野球をするんだろう、という興味はありますね。ただ、昔から「名選手は名監督になれない」といわれますから、どうなるかな。僕の場合は名選手でも名監督でもなくて、名捕手っていうだけ(笑)。
僕が思うに、監督に向いているのは川上哲治さんや西本幸雄さんのような、選手から尊敬される人物です。監督は、もちろん技術的なものも求められるけど、もっと大切なのは人間的な魅力じゃないですか。イチロー自身が「人望がない」と言っていましたけど、監督としてダメだと思いますよ(笑)。彼は人を小ばかにするような態度をとることがある。選手としてはよくても、監督としては難しいんじゃないですか。
〈天才というと、やはりあの2人についても語らずには済ませられないようだ。ONである。〉
長嶋と王は、本当の天才だったと思いますよ。僕はテスト生から成り上がった選手だから、大学時代からスターで天才の長嶋とライバルだったといったら、向こうに失礼。ただ、選手時代も監督時代も、「天才野球には負けたくない」っていう気持ちはあったと思いますね。ただ、長嶋がなんであんなに人気があるのかは、疑問だなあ。
王はね、僕は63年に52本塁打で、十何年ぶりに本塁打記録を破ったんです。「これで10年くらいは、記録が抜かれないだろう」と思っていたら、翌年には王が55本を打って抜かれちゃったから、まいったね。
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